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 いよいよ今月も最終日です。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 まず、最初にお知らせがあります。
 鳥取市と松江市にお住いのみなさま、セゾン投信のリアルセミナーが開催されます。10月15日と16日の午後2時からです。
 なかなか山陰に行く機会がないので、みなさまに直接お会いできるのを楽しみにしております。

鳥取セミナー
https://www.saison-am.co.jp/seminar/detail/20220719091647.html

松江セミナー
https://www.saison-am.co.jp/seminar/detail/20220719092148.html

よろしくお願いします。


 さて、SiC MOSFETの成長性について連載してきましたが、本日もその続きです。


=手順について おさらい パワー半導体について=


 今回はパワー半導体のことを考えてみます。

 手順は以下の通りです。

1.まずは製品そのものを理解することに努めます。
2.その後、その製品の歴史を鑑みて長期のトレンドを把握します。
3.最後に将来について、そのトレンドを参考にして予測します。


 予測については以下の手順で行います。

1.人々の暮らしを観察し、需要を想定する。
2.価格を想定し、数量を想定する。
3.供給を想定する。シェアを推定する。
4.費用を想定する。
5.長期の業績のトレンドから増収によるスケールメリットを計量に入れる。

 減収が想定される企業は調査対象とはなりません。

 ざっくりと以上のような手続きをとります。
 資料ですが、各種統計や過去のIR資料など、利用できるものを集めます。
 そして、資料がないもの、アナリストとして自身が判断しなければならないものについては、何かしらのレンジ(数字の大小の区間)を推定します。

 たとえば2万円から4万円とか、100万人から300万人とかシナリオには幅を持たせる。新米のアナリストができないことの一つが、勝手に数字を置いてみるという作業です。置け!と命令しても置けないことがある。

 ひとつの数字を置くにもアナリストは一般教養と一般常識が試されるからです。ありえない数字を一回置いただけで解雇対象になるのがアナリストの職場です。

 ごまかし方は多数。レンジ(推定区間)を広くとればよい。
 上の例では、2つの要素、価格と人数のペアで最悪(利益が最小)のシナリオと最高(利益最大)のシナリオが想定できます。
 (0.1万円、10万人)という最小ペアと(10万円、1,000万人)という最大ペアでどちらも予測に使います。
 これほど広いレンジをまずとってみて、その後、取材や調査でレンジを可能な限り狭めていくのが作法です。

 過去の分析については時系列データ(業績データや統計データ)の変動率の平均値や標準偏差を参考にします。

 また、調べたい関連する書籍も図書館で借ります。

 アナリストとして肝心なことは、漠然と調べないこと。
 命題をひとつ考える。
 たとえばシリコンウェハーの純度は今後も上がっていくのかという命題をつくる。その命題が真であればよいのにと思いながら調べるのです。
 業績に効くためには冒頭の長期の技術トレンドに沿った命題をつくる。
 表面積はどの程度増えるのか。将来表面積は2倍になるのか。そのような命題をつくる。

 昔の書籍は案外、役に立ちます。今の書籍と読み比べることで、長期のトレンドがむしろはっきりするからです。

 人々の生活水準も参考になります。

 一人当たりのGDPが低い国と高い国では製品の普及率に大きな差があります。
 新興国が順調に経済成長を遂げることができればアップサイドは大きくなります。
 しかし、新興国の経済基盤は弱いので逆に経済危機が生じる場合もあり、その場合はダウンサイドのリスクが大きくなります。

 業績の予想は、取材などに基づくボトムアップ型だけでは難しく、統計や経済モデルなどを総動員しマクロ経済からのトップダウン型も取り入れる必要があります。オーソドックスに普及曲線を考えて当てはめていきます。
 それを主な製品ごとにするわけですから、膨大な作業となります。

 アナリストが小型株を調べてボトムアップで調査をすると業績予想は当たらない。
 沢山フットワークを使って、例外的によいことをいう経営者に出会ってしまうのです。
 出会ってしまうのは幸運とは限らず不幸でもある。
 例外的によいと感じるということは危険な兆候です。


 説教じみたコメントはこのぐらいにして、それではパワー半導体について考えてみましょう。


=パワー半導体について=


 テレビやPCに電源があるように、電子機器は電気がなければ動きません。
 エアコンなど家電製品も同様です。

 家庭用のコンセントから交流電圧を受け取り、それを所望の電圧に変換するものを電源と呼び、その機能を担うものが電源回路と呼ばれるものです。

 トランジスタは電圧や電流を制御することができるディスクリート半導体と呼ばれるものです。半導体とは導体と絶縁体の中間の素材であり、シリコンなどが代表的な半導体です。

 半導体というとき、ディスクリートのトランジスタはオンとオフを表すスイッチとしても作用することから、論理回路としても有効で、集積回路IC(integrated circuit)と呼ばれています。

 ICは種類によってロジックとメモリーに分かれます。

 ICやモーターなどの負荷を要する部品や機器に電力を供給するのがパワー半導体です。

 半導体>アナログ半導体>パワー半導体>ディスクリート・パワー半導体>SiC MOSFET


 電気自動車を例にします。

 アクセルを踏んだ場合、中央演算処理装置CPUが「10秒で毎時100キロまで加速せよ」という趣旨の情報をまずはゲートドライバーに伝達します。
 そのゲートドライバーがその情報を「翻訳」して、モーターを駆動するためのMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)のゲートに電圧情報を伝えます。

 このCPUのデータがゲートドライバーによりMOSFETのゲートドレイン電圧に変換されて、所望の三相交流信号をモーターに伝えます。
 モーターが10秒で所望のトルクに到達するような電流をMOSFETから受け取ります。電気自動車はモーターの回転により加速するという具合です。

 ここでCPUのように論理回路の信号はデジタル信号とされます。
 0001 0010 0011 0100 0101 など2の4乗の情報をもつことを4ビット(2の4乗)と呼びます。
 データセットは8ビット(256の状態)を基本としたり16ビット(65536の状態)を基本としたりします。

 テレビの色は赤、青、緑の三原色で表現されていますが、たとえば、赤、青、緑のそれぞれに8ビット256階調を持たせると全体としては24ビットの情報となります。

 このように大量の情報を即座に計算したり記憶させたりするのがデジタル信号で物理的にはビット数に応じたトランジスタの数がそれぞれオンとオフの状態をつくりだすことで状態を定めているのです。


 CPUのデジタル信号を受けて、アナログ信号をつくるのが、アナログ半導体で、このケースでは、ゲートドライバーICとMOSFETがアナログ半導体でパワー半導体です。
 アナログ半導体はリニア信号とよばれる電圧や電流の大きさを扱うものです。

 MOSFETはゲートドレイン電圧をこのヴォルテージレベルにするとドレイン電流がこのアンペアだけ流れるという仕組みになっています。
 モーターを所望の回転をさせるために、これだけの電流がほしい。CPUからの電気信号を受けてゲートドライバーが信号を増幅します。そして狙ったゲート電圧をリニアで出力する。

 EV(電気自動車)の場合、こうした半導体に電圧を供給しているのが大本のリチウムイオン二次電池であり、もちろん、ゲートドライバーICにも電力の供給が必要です。

 上の参考図ではゲートドライバーICはトランジスタ2つの構成になっています(実際のゲートドライバーICは端子が28個あるもっと複雑な構成となっています)。

 このようにICといっても、パワーICの場合、トランジスタ数個(及び抵抗とキャパシタ数個)の集積に留まる場合が多々あります。


 ここで大事なことは、ICの消費電力です。
 ICの入力電圧が低い方が電力は低くなります。

 なぜならば電力(P)は電圧(V)と電流(I)の積。P=VIです。
 デジタル信号の電圧の振幅は小さくなる傾向にあります(長期のじわじわ系トレンド)。

 電圧を供給する回路を電源回路といいますが、交流ACから直流DCを作り出す。あるいは同じACからACを違う周波数や違う電圧に変換する。あるいはDCからDCをつくるというものもあります。
 DC-DCやAC-DCなどが、電源ICと呼ばれています。

 EVの場合は、大元のリチウムイオン二次電池は大電圧400Vから800Vという非常に高い電圧を持ちます。その理由は高電圧にすることで急速充電ができるからです。

 たとえば800Vという高い電圧をそのまま人間が触れば感電死となってしまうため、安全を考え、モーターに行き着く前には低電圧にしておかなければならないのです。
 この役割をEVの場合は、ゲートドライバーが受け持ちます。絶縁ゲートドライバーと呼びます。

 絶縁の仕方もいくつかありますが、もっとも電力効率の高いのは磁気を利用した絶縁方式です。
 従来はフォトカプラという光素子を用いて絶縁を実現していましたが、昨今は、銅配線をトランスに見立てたもので絶縁を実現しています。

 ちなみに、この新しい磁気式で世界トップのシェアをEV向けで獲得しているのが京都の半導体メーカーであるローム株式会社です(2022年現在筆者推定)。


 さて、肝心のEVパワーステージ向けのMOSFETですが、トランジスタの大電流化に優れたIGBTに変わってSiC MOSFETが主役になりつつあります。


(次回に続きます)


山本 潤 セゾン投信共創日本ファンド ポートフォリオマネージャー


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 セゾン投信の国内株式運用部ポートフォリオマネジャーの山本とシニア・アナリストの大月が長期投資のだいご味や業界の深堀レポートをコラムにしたnoteを始めました。

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