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長期投資の入門 第12回 SiCパワー半導体の将来性
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長期投資の入門 第12回 SiCパワー半導体の将来性

2022-10-26 16:01
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    =SiCパワー半導体の将来性=


     近年、SiCパワー半導体の投資リスクを低減する動きが出てきました。
     政府による補助です。

     TSMC(台湾積体電路製造股有限公司)の前工程の九州への誘致がありましたが、同様にパワー半導体についても新工場建設においては政府からの補助金が出ています。

     日の丸半導体への追い風としては、金融政策の違いによりもたらされた円安効果にあると考えます。円安傾向は製造業の国内生産回帰の流れを決定的にしました。
     この円安は人口減少に悩む内需はインバウンドで救い、競争力の低下に悩む外需は円安で助けるという内需外需両面の支援策ともいえるものなのです。

     特に生産拠点が日本だけの国内半導体メーカーはこの円安で欧米勢への本社コストの面で有利になりました。

     SiCについては、この先はさらに集積回路化が期待できることから、とても楽しみな展開となっています。

     将来想定としては、モーターひとつに6つのMOSFETと6つのゲートドライバーが用いられるのですが、EVは前後のモーター二つ使いと車輪すべてがモーターとなるインホイール化もあり、そうなると一台に24ものMOSFETがパワーステージだけで使われます。

     現状、100個以上のモーターが1台の車で使われ、同様に数十から100といわれるECUが一台で使われています。これらに電力を適正に渡す役割がパワー半導体にあり、ブラシレスモーターを駆動するのはモータードライバーと呼ばれるICです。
     同時に半導体にも電力が必要です。
     一時的に電荷を貯めることができるキャパシタの需要も高まります。

     特に低消費電力とするならば、モーターも半導体も不要なときには電力を配らないようにするパワーマネジメントが主流になっていきます。
     いまでも、CPUはマルチコアといって、不要なコアには電力を提供していません。こうした多電源化の流れはずっと続いていくでしょう。

     EVだけではなく、ヒューマノイドなどのロボットやドローンなどにも半導体やモーターは多数積まれます。


     一方で、供給者をみれば、世界的に寡占が進んでいます。

     30社程度でスタートしたマラソンが中間地点になり、現状、日本のパワー半導体各社を先頭にスパートがかかった状態で、後発がレースから遅れ脱落しつつあります。

     SiCでのシェアはテスラ向けに独占供給を果たしていたSTマイクロ社など海外勢がトップ3ですが、ロームが世界4位のシェアで足元そのシェアは上がっています。
     なんとか日本勢も頑張って食らいつき、メダル争いをしている状況です。


     ロームについては、ウェハーを内作し、フォトマスクも内作し、後工程の装置も自社設計というピュアな垂直統合企業ですが、ビジネスモデルは京大や立命館大学など、最近では名古屋大学のパワーエレクトロニクス研究室も地力がありとても頑張っていますが、ロームの京都大学をはじめとする産学共同体制は長年の実績があります。
     残念ながらかつてのように、ソニーやパナソニックが弱電で世界を制覇し、NTTドコモが3Gで世界標準を狙うような状況ではなくて、いま、ロームの受注は海外勢の新興EVやベンチャーも多数含まれています。

     顧客が数百社、数十社という中から、勝てる見込みのある顧客を選ぶことができるのか。そのリスクはあります。
     しかし一方で、強固なヒエラルキーを誇った日米欧の寡占の内燃機関メーカーの序列は崩れ始めています。価格交渉力は川上の半導体メーカーに移った可能性が高いのです。


     みなさまは半導体というと、価格が低下して採算が悪化するというイメージがあるかもしれないですが、長期の技術トレンドが教えるところでは、肝心なことは費用対効果なのです。

     費用対効果が2倍になって、価格が半値になっても、利益率は変わりません。
     一方で需要は拡大します。

     村で一台が、一家に一台に。そして一人一台に。最終的には一人複数台に。
     このようにトレンドは動きます。

     また、一台あたりのモーターの数もインホイール化によって増えていきます。

     後は一台あたり半導体が数十個で1万円から数万円という高付加価値製品が何百万台売れるかを計算すれば業績の予想の大まかなスケッチはできます。

     それをしてから、個別企業の取材を行うという流れになります。
     トレンチをいくら細くしたとしても、従業員の数はそのままでいけます。
     売上に対する固定費の比率は徐々に下がります。
     これがスケールメリットです。

     SiCは寡占のマーケットで、価格交渉力は寡占側にあります。
     長期契約による安定供給を顧客と結び、不況の影響を極力受けないビジネスが可能な領域です。
     SiC化によりMOSFETオン抵抗は半減ができる。消費電力もおそらく2割は落とせるでしょう。良質のものがこれから出てくるので。

     GaNについても、今後、耐圧の低い高周波領域から普及は始まると見ており、当面は高耐圧SiCと棲み分けとなるでしょう。


    [参考文献一覧]

    「4H-SiCにおける結晶欠陥の微細構造とデバイス特性への影響に関する研究」筑波大学恩田正一(2013
     https://core.ac.uk/download/pdf/56656306.pdf

    本木京大工学部教授のインタビュー記事(2019)
     https://www.rohm.co.jp/analogpower/interview/02

    ●特許出願番号2019-566441(ロームと京都大学との共同研究による出願)

    ●「パワー半導体産業の比較分析と微細化技術の導入効果に関する研究」九州大学 馬場 嘉朗(2020)

    ロームHP rohm.co.jp

    「アナログ電子回路」オーム社1995年 杉本泰博(中央大学理工学部教授)

    「自動車用パワーエレクトロニクス」科学情報出版社2022年 クライソン トロンナムチャン



    山本 潤 セゾン投信共創日本ファンド ポートフォリオマネージャー


    【お知らせ noteの執筆開始】

     セゾン投信の国内株式運用部ポートフォリオマネジャーの山本とシニア・アナリストの大月が長期投資のだいご味や業界の深堀レポートをコラムにしたnoteを始めました。

    https://note.com/saison_am/magazines

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