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長期投資読本 炭化ケイ素パワー半導体業界の展望
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長期投資読本 炭化ケイ素パワー半導体業界の展望

2022-11-23 00:41
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    =長期の技術のトレンドの筋=


     長期投資の筋として、製品の付加価値の上昇と付加価値当たりの費用の下落とが共存するイノベーショントレンドがあることをお話しました。

     よい長期の技術のパターンその1:表面積が付加価値

     表面積が付加価値になっている場合は、触媒や半導体など、界面が作用するケースで、どんどん薄化するとか、小型化するとかすることで、付加価値あたりの費用という相対的な指数(いわゆる比率)を改善することができたのでした。
     これは中身が詰まった金属の塊を想定してください。
     たとえば銅の塊を極薄に引き延ばすことで箔にすると、どんどん表面積を大きくすることができますね。立方体でその中身は詰まっているイメージ。

     よい長期の技術のパターンその2:体積が付加価値

     逆に体積が付加価値で表面積が費用の場合、主に空間、中身が空気であるものが多いのですが、段ボール箱のようなものを想定してください。
     段ボール箱は中身が空気ですが、縦横高さを倍増すれば表面積は4倍になりますが、体積は8倍になりますね。立方体でその中身はからっぽのイメージ。

     この2つのパターンが長期の技術トレンドです。
     どちらのトレンドも、単位付加価値あたりの費用は長期的に劇的に低減していきます。

     もちろん、この長期投資読本では、繰り返し述べていますが、長期投資には、これさえやれば成功するという魔法は存在しません。

     投資とは、it is not that easy!! それほど簡単ではないよ!と言いたい。
     あれもこれも、調べて、Aじゃないかもしれないとわかる。
    裁判官の仕事はひとつの犯罪について、被告が黒か黒ではないかを悶々と考える。1か月も同じ案件をずっと考える。それでわかることは1つの案件が黒なのか、黒ではないのかということ。いや、それでも本当のところは(被告人以外には)わからないのです。

     まして、投資家は「命題Aは真なのか?」という一つのことを考えることで論理を組み立てる。
     Aは真ではないかもしれない。
     いや、Aは真なのだろう。
     ひとつの命題がわかっただけでは投資にならない。
     命題BもCもDもその他の命題も真のとき、投資のハードルを越えることができる。膨大な作業になります。

     投資の初心者向けの入門書は簡単チェックでよいでしょうが、投資のプロフェッショナルは膨大な時間の自己犠牲を伴いながら真実に少しでも迫ろうとするのです。ともかく教養がなければスタートラインにさえ立てない。アナリストを育てるには20年はかかると思います。

     そうはいっても、脅してばかりでは仕方ないので、冒頭に書いたように長期投資によい筋をもたらすための2つの基本的な考えは、それはそれで役には立つ。上記の2つのよい技術トレンドもなにかの投資の参考にしてもらいたいという思いで書いています。


     投資案件はそれほど簡単によいかわるいか判断できるものではありません。

     たとえば、上記の2つの長期の技術パターンは世界において必ず吹いている偏西風のようなもので時代の風ともいえるものですが、その変化のスピードは遅いのです。
     たとえばビルディングが時代とともに大きくなるといっても、長い月日が必要です。東京タワーがスカイツリーに置き換わるのに何年かかりましたか。

     同様にシリコンウェハーの単結晶の純度を9N(99.9999999%)から10Nに上げるといっても、とても長い月日が必要になります。
     これから述べるパワー半導体のゲート酸化膜の薄さについても、じわりじわりと薄くなるのであって、数年かけてわずかに薄くなるのです。
     短期の投資家はこのようなじれったいトレンドを考えません。
     It is not that easy!なのです。

     しかし確実に生じている「じわじわ」トレンドを味方にするのが長期投資の利点なのです。

     増収が確実にじわりと限界利益率を改善するのも、じわじわ系長期のトレンドです。年間の利益率の改善ペースはコンマ1-2%の小さな改善で気が付かないペースなのです。しかし、10年20年でみれば数%の利益率の向上をもたらすのです。

     日本の技術力は低迷していると揶揄されることがありますが、決してそのようなことはありません。特に、長期のじわじわトレンドであるアナログ技術は日本のお家芸です。
     アナログ技術とは、品質や特性やコスト競争力を向上させるための技術のことです。現場の地道な改善提案で現場がトライアンドエラーを繰り返すことができる。これが日本の強みです。
     それがさらなる微細化、ナノ化、純度の向上、精製の精度の向上、工法の改善、その他もろもろが、じわじわ系トレンドに結びついているのです。

     今回のパワー半導体も「アナログ半導体」と呼ばれていて、日本企業が世界的に強い分野です。


     難しいからやる意味がある。何事もそうありたいものです。


    =手順について おさらい 製品のトレンド調査=


     今回はパワー半導体のことを考えてみます。
     手順は以下の通りです。

    1.まずは製品そのものを理解することに努めます。
    2.その後、その製品の歴史を鑑みて長期のトレンドを把握します。
    3.最後に将来について、そのトレンドを参考にして予測します。

     予測については以下の手順で行います。

    1.人々の暮らしを観察し、需要を想定する。
    2.価格を想定し、数量を想定する。
    3.供給を想定する。シェアを推定する。
    4.費用を想定する。
    5.長期の業績のトレンドから増収によるスケールメリットを計量に入れる。減収が想定される企業は調査対象とはなりません。


     ざっくりと以上のような手続きをとります。

     資料ですが、各種統計や過去のIR資料など、利用できるものを集めます。
     そして、資料がないもの、アナリストとして自身が判断しなければならないものについては、何かしらのレンジ(数字の大小の区間)を推定します。
     たとえば2万円から4万円とか、100万人から300万人とかシナリオには幅を持たせる。新米のアナリストができないことの一つが、勝手に数字を置いてみるという作業です。置け!と命令しても置けないことがある。

     ひとつの数字を置くにもアナリストは一般教養と一般常識が試されるからです。ありえない数字を一回置いただけで解雇対象になるのがアナリストの職場です。

     ごまかし方は多数。
     レンジ(推定区間)を広くとればよい。
     上の例では、2つの要素、価格と人数のペアで最悪(利益が最小)のシナリオと最高(利益最大)のシナリオが想定できます。
     (0.1万円、10万人)という最小ペアと(10万円、1,000万人)という最大ペアでどちらも予測に使います。これほど広いレンジをまずとってみて、その後、取材や調査でレンジを可能な限り狭めていくのが作法です。

     過去の分析については時系列データ(業績データや統計データ)の変動率の平均値や標準偏差を参考にします。

     また、調べたい関連する書籍も図書館で借ります。
     アナリストとして肝心なことは、漠然と調べないこと。

     命題をひとつ考える。
     たとえばシリコンウェハーの純度は今後も上がっていくのかという命題をつくる。その命題が真であればよいのにと思いながら調べるのです。
     業績に効くためには冒頭の長期の技術トレンドに沿った命題をつくる。
     表面積はどの程度増えるのか。
     将来表面積は2倍になるのか。
     そのような命題をつくる。

     昔の書籍は案外、役に立ちます。
     今の書籍と読み比べることで、長期のトレンドがむしろはっきりするからです。

     人々の生活水準も参考になります。
     一人当たりのGDPが低い国と高い国では製品の普及率に大きな差があります。
     新興国が順調に経済成長を遂げることができればアップサイドは大きくなります。
     しかし、新興国の経済基盤は弱いので逆に経済危機が生じる場合もあり、その場合はダウンサイドのリスクが大きくなります。

     業績の予想は、取材などに基づくボトムアップ型だけでは難しく、統計や経済モデルなどを総動員しマクロ経済からのトップダウン型も取り入れる必要があります。
     オーソドックスに普及曲線を考えて当てはめていきます。
     それを主な製品ごとにするわけですから、膨大な作業となります。
     アナリストが小型株を調べてボトムアップで調査をすると業績予想は当たらない。
     沢山フットワークを使って、例外的によいことをいう経営者に出会ってしまうのです。
     出会ってしまうのは幸運とは限らず不幸でもある。
     例外的によいと感じるということは危険な兆候です。


    (つづく)


    山本 潤 セゾン投信共創日本ファンド ポートフォリオマネージャー


    【お知らせ 共創日本会議開催】


     11月は茅場町FINGATEにて14:00から16:00まで、開催を予定しております。
     12月はセゾン投信(サンシャイン60 48F)にて開催を予定しております。

    ○11月26日土曜日(参加無料)
     リアル参加をご希望の方はこちらよりお申込みください。
     https://www.saison-am.co.jp/seminar/detail/20220921151224.html

     オンライン参加でご希望の方はこちらよりお申込みください。
     https://www.saison-am.co.jp/seminar/detail/20220921151122.html

    ○12月17日土曜日(参加無料)
     リアル参加をご希望の方はこちらよりお申込みください。
     https://www.saison-am.co.jp/seminar/detail/20220921151609.html

     オンライン参加でご希望の方はこちらよりお申込みください。
     https://www.saison-am.co.jp/seminar/detail/20220921151525.html


     共創日本会議12月まではオンライン配信もする予定です。
     来年1月以降、ライブ感を重視するために、オンライン配信はとりやめることにしました。共創日本会議はリアル開催のみにする予定です。
     リアル参加できない方には後日、動画を編集後、順次、公開予定といたします。来年1月以降は一緒に長期投資を学習していくスタイルにいたします。
     楽しみにしていてください!!

     隔週水曜日の夜のオンラインセミナーはそのまま継続する予定です。


    【お知らせ noteの執筆開始】

     セゾン投信の国内株式運用部ポートフォリオマネジャーの山本とシニア・ア
    ナリストの大月が長期投資のだいご味や業界の深堀レポートをコラムにした
    noteを始めました。

    https://note.com/saison_am/magazines

     フォローしていただけると大変うれしいです。今後の執筆の励みになります。


    【ご留意事項】

    情報提供を目的にしており内容の正確性を保証するものではありません。
    投資に関してはご自身の責任と判断でお願いします。当コンテンツに係る留意事項は以下のリンクにてご覧いただけます。
     ⇒ https://www.saison-am.co.jp/attention/#risk

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    金融商品取引業者:関東財務局長(金商)第349号
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    当情報は、筆者が情報の提供を目的に作成したものであり、投資勧誘及び、売買指示ではございません。また、金融商品取引法に基づく開示書類でもありません。株式投資には価格の変動等によって損失が生じるおそれがあることをご理解の上、投資にあたっての最終判断はご自身の判断にてお願い致します。当情報は、信頼できると思われる各種情報、データに基づいて作成しておりますが、その正確性及び安全性を保証するものではありません。投資信託は値動きのある有価証券等に投資しますので基準価額は変動します。その結果、購入時の価額を下回ることもあります。また、投資信託は銘柄ごとに設定された信託報酬等の費用がかかります。各投資信託のリスク、費用については投資信託説明書(交付目論見書)に詳しく記載されております。お申込にあたっては販売会社からお渡しする投資信託説明書(交付目論見書)の内容を必ずご確認のうえ、ご自身でご判断ください。
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