私の意思一つで起爆する爆炎球を肩に浮かべながら、男は坑道内を先導し続ける。その背中を常に視界のどこかに捉えながら、私は少なからず違和感を覚えていた。

 この男が廃坑入口で言った『あんたが来るとは』という言葉。あれは、私の存在が想定外であるからこそと思った。しかし、私を『不落』として認識しながら少しも狼狽える様子はなく──これでも不埒な輩どもにはそれなりに名が知れている身だ──にもかかわらず身体検査も武装解除もないままに招き入れ、そうしておきながら単独での不意打ち。窮地においては仲間を喚ぼうとすらしなかった。それらに加えて、匂いだ。この男がただの山賊風情であるなら、組み伏せた時に油脂が腐り固まったような特有の不快臭がしてもおかしくなかったはずだ、だがそれも無かった。過去の経験則に当てはまらない事例などいくらでもあるが、それが二度ならず三度を超えてくるなら話は変わってくる。