九州・福岡に本社を置く地方のモノづくり企業、日創プロニティ(3440)は加工の総合商社を標榜し、日本国内に存在する実績豊富で有力なモノづくり中小企業を積極的なM&Aでグループ化し成長を図ろうとしている筆者の注目企業の一つである。
半導体や電子部品などのような凄い技術力を持っているハイテク企業とは同列には扱えないものの、様々な素材、とりわけ鉄やアルミなどの金属素材を加工していくノウハウを保有し、自らを加工の総合商社という位置づけで事業展開をしている。
2013年から始まったFIT(固定価格買取制度)の下でまだ小さな事業規模であった同社の業績はソーラーパネルの設置用金属架台への需要が拡大しわずか3期間で累積利益50億円以上となったことは今となっては同社を語る過去の伝説的な話である。
ちなみにその3期間というのは
[2013年8月期]
売上高63億9000万円
営業利益27億64百万円
経常利益27億54百万円
当期利益15億65百万円(*1)
[2014年8月期]
売上高78億1900万円
営業利益28億28百万円
経常利益28億44百万円
当期利益21億85百万円(*2)
[2015年8月期]
売上高75億5900万円
営業利益22億39百万円
経常利益22億83百万円
当期利益14億 7百万円(*3)
(*1)+(*2)+(*3)=51億57百万円
ちなみにFIT前の2012年8月期の業績は売上高17億46百万円、営業利益33百万円、経常利益30百万円、当期利益15百万円にしか過ぎなかった。
FIT前から手掛けていた金属架台で一発当てたという印象が持たれるが、同社自体は至って真面目にモノづくりを追求してきたという印象がある。
同社にとってはこの巨額な利益をもたらしたビジネスの山が越えることを前提に今後の事業展開について思い描いた筈であるが、その答えが「加工の総合商社」ということ。あくまでも同社はモノづくり企業であってその加工アイテムを広げて社会貢献するということが念頭にあると言える。
同社を初めて訪問したのはまだQボード時代でソーラービジネスにまだ成長の余韻が残る3、4年ほど前であるが、以来筆者は同社とコミュニケーションをしながら密かにエールを送ってきた。
わずか3期間で50億円もの利益を得た同社であるが利益は自らの工場設備に充当し、福岡工場と福島工場の2つの工場をメインにした金属加工をコアビジネスにする一方で一部をM&Aにも振り向け、群馬のゴム加工会社、吾妻ゴムをグループに入れて以来ビジネスストーリーは自社金属加工以外の分野にも広がり始めた。
同社を知らない投資家は単なる町工場のイメージをお持ちなのかも知れませんが、工場には最先端のマシンが置かれ鉄鋼やアルミ、各種非鉄などの加工体制が整っていることを知る必要がある。
ここまでは単体の活動だけの話でソーラー用架台で儲けただけの会社ではないかで終わってしまいそうだが、単なる中小町工場的な同社の物語はこれから新たな成長ステージを迎えることになるだろう。
吾妻ゴムのグループ化に続いて、材工一体を図るため建設エンジニア企業(日創エンジニアリング)を設立して自社素材を設置するための建設事業にも参入。その後、広島の綾目精機(金属部材加工)、名古屋のダイリツ(空調機
器)をグループ化するなどM&A戦略を積極化しピークを打った感のあるソーラー架台の製販事業を補ってきた。
その段階で絶えず同社が気にしていたのはシナジー効果というもの。単なる単体+子会社業績では投下した資本に見合わずM&Aの成果は限定される。
せっかく内部蓄積した金融資産は目減りするだけになる。こうした先行的なM&Aによるビジネス経験を踏まえながら、その後3年間のM&Aは一旦は見送られてきたが、現在の2024年8月期までの中期計画では再び50億円を上限枠として積極化させるとし、それが直近になって相次いで具体化してきた。
まずは昨年2月の建築金属工事会社 壹会(本社:東京都千代田区岩本町・年商10億円)を5000万円でグループ化。壹会は日創エンジニアリングの子会社となるため同社にとっては孫会社の位置づけ。このM&Aでは優秀な設計技術者が在籍する壹会との間で受注の内製化によるシナジー効果が生まれたため日創エンジニアリングの受注が急増。今期1Q末の受注高が44億円、同残は60億円と急拡大してきた。
今後も同社グループが強化中の金属サンドイッチパネルの設計・施工にも関与することで事業シナジーを高めていく計画。
壹会のグループ化は投下資本が少なくシナジー効果が本格的に生まれ始めた好事例となるが、今年もまたM&Aの発表が相次いでいる。
昨年8月には住宅用タイル製造販売のニッタイ工業及びその関係会社のエヌトレーディング(2022年3月期年商合計54億円、営業利益65百万円)の株式取得(取得額18億円・従業員200名、本社:愛知県)を発表。中国子会社の清算を待って株式譲渡が実行されるということであったが、それが2月13日に実行されたため同社の下期の業績に貢献することになった。
まずは2Q(2月)末の受注残が新たなセクターに示されることになるが、同時にM&Aではのれん代の償却が始まることになる。
ところがニッタイ工業は純資産が38億円と買付額18億円を大きく上回っており、この場合はこの差額に対して負ののれん代が発生する可能性があるため同社からの発表を待っている状況である。負ののれん代は営業外に一過性の利益として計上されるためまともに考えると経常利益が一時的に膨らむ可能性がある。但し、中国子会社の清算損などがあるためどの程度計上されるのかは同社からの発表を待つしかない。
これに続いて発電機の防音カバー、消音BOXを製造するワタナベテクノス及びその関係会社エヌテクノス(本社:福岡県飯塚市、2社合計前期年商20億円、営業利益合計2億円・投資額7億円)を1月23日付でグループ化した。これも同社とのシナジー効果を生む可能性がある。外注の内製化で2Q(2月)末の受注残としても乗る見込み。下期5カ月分(3-7月期)の業績が同社の今期の業績に上乗せされる見込み。
今期はこれで終わりかと思われたがさらに天神製作所という宮崎県都城市に本社を置く畜産用堆肥撹拌装置メーカー(前9月期年商5.7億円、営業利益0.12億円、前々期は1.1億円)を3月13日付でグループ化(投資額8億円)すると発表。これも同社の3Q決算以降に反映されることになる。
従来からの取引関係のある畜産業界への販売支援や内製化によるコスト削減効果など期待され、シナジー効果が狙えると期待される。
こうしたM&Aによる拡大施策が投資家にはまだ十分には伝わっていない。
後継者難の中小企業をM&Aでグループ化している企業の事例としてはヨシムラフードHD(2884・時価総額265億円・今期予想営業利益8.3億円)があるが、ここの株価はこのところの積極的な中小食品関連企業の買収により昨年9月の安値447円から先週の高値1117円まで約5か月間で2.5倍にも上昇してきた。
一方、日創の場合はさほど評価されない状態が見られる。まあ嵐の前の静けさではないかと思われるが同社の場合、食品セクターの企業とは評価が異なるのは致し方ないが、自社内に蓄積した内部資産を活用してモノづくり中小企業のM&Aによって財務内容を健全なまま維持させながら事業スケールが拡大し今期売上は120億円、来期は売上150億円以上に拡大が予想され、EBITDA(営業利益+減価償却+のれん代償却)15億円という水準が見えてきた。
しかしながら、市場での評価は低いままでなかなか高まってこない。
昨年の安値は507円でしたが、現在はようやく600円に接近した状態。
時価総額は依然として40億円以下となっており、ヨシムラフードHDと同じような評価がなされるなら、時価総額は100億円以上となっても不思議ではない。
IRがまだ不十分なので評価が高まらないという現実があるが、本誌をご覧になった皆様にはどのようにこの会社を評価されるだろうか?
地方のモノづくり上場企業が歩むユニークな生き方を理解しながら業績推移を見守って頂く長期スタンスでのファンが増えてくることを期待したい。
頑張れ!!日創プロニティ。
(炎)
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