米国10年債利回り3.4%台へ低下。信用不安。依然としてくすぶる展開。
米国債利回り過去10年をみれば3%台は2014年に一回、そして長期の景気拡大の終盤であった2018年。
ついでロシア侵攻の2022年-2023年現在まで。
今回はロシアによる石化資源の供給制限、ウクライナの穀物の輸出制限、コロナ蔓延による港湾労働者不足などでコストプッシュ型のインフレが生じた。
長期債利回りは一時4%をつけたが、その後、現在の水準に落ち着いた。
加えて、通常ならば衰えるはずのインフラ需要は衰え知らず。
カーボンニュートラルにより生まれる膨大なビジネスチャンスがゆえに企業の投資意欲はおそらく人類史上で最も高位にある。
世界中で軍拡が起こっている。本当に残念なことではある。
これも中露陣営と西側との2極体制の区別が明確に。
それぞれが地産地消を目指すため、半導体を中心にして最先端テクノロジーの誘致合戦が巻き起こっている。こうした旺盛な需要によるディマンドドリブンと前述の供給ボトルネックによるコストアップが共に作用した結果の長期債利回りの上昇であった。
このような背景であった。
カーボンゼロとはなにか。
それは風力、地熱、ありとあらゆる自然由来のエナジーを活用し石化エナジー利用を最終的には取り止めたいというもので、自然由来エナジーは太陽光などが中心となってはいるが、残念ながらこうしたものは出力が不安定である。
自然エネルギーの普及はこれからが本番。さらに、蓄電システムを十二分に完備しておくことが長期のトレンドとなる。
この意味で、蓄電完備のコンセプトに合致するのは電気自動車であった。
EVを蓄電池と見なすことで世界中が石化の膨大な輸入を取り止めて貿易赤字を大幅に減らすことができる。
このカーボンニュートラル・シナリオを危うくするものが、半導体の消費電力の増大そのものであった。いくら再エネを普及させても、ビットコインのマイニングのような社会的意義の低いものに半導体が大量消費されてしまうとCO2排出のネットゼロは達成できない。
むろん、CPUのアーキテクシャーの変更、MRAM導入やGAAに見られるFETゲートの改良、3D半導体や光電融合といった技術革新は生じているものの、膨大な半導体の需要はAIや自動運転など利便性や効率化のための経済成長の切り札であるから、最先端半導体技術への投資は続けざるを得ない。
そうなると、一時的・一過性と思われていた石化や内燃機関は延命していくことになる。一定期間の延命措置がなされ、その間は、石化関連事業の競争環境は緩和の一方であるし、大いなるキャッシュフローが内燃系や石化関連(プラント、苛性ソーダなど)に流れている。
たとえば特殊陶業のエンジンプラグなどはものすごい営業利益率になっている。
このキャッシュフローはだが、一時の「見せ金」であり、この「見せ金」は、石化亡きあとの業況の完全転換に先行投入されるべきものであろう。こうした「見せ金」の猶予は限定的で長くてもせいぜい15年程度であろう。
これからのせいぜい15年(の見せ金キャッシュフローの潤沢な期間)が人類にとって、インフレとの長期の戦いの局面となり、VIXも20を超える異様な期間になりうる。
3%の金利は案外、15円を長期とみるのであれば長期化するのではないか。
しかし、わたしはディスインフレが急激に起こるには10年はかからないと見ている。人工知能やロボットなどの普及が再エネ・半導体・バイオ産業を加速させ、人類の生産性の向上ペースは維持できると見るからだ。
なぜ金利が消滅したのか、なぜ銀行が社会的な存在意義をなくしているのかを知るためには、こうしたディスインフレの過去の長期のトレンドを参考にするのがよいのではないか。
変貌を遂げる社会において、グローバル企業と各国政府のベクトルは揃っている。なぜならば、「地球が危ない」というのが人類の共通認識となっているからであろう。
たとえばフォードは30億ドルの赤字をEVで今年作る。この赤字額は体力の範囲でぎりぎりのところであろう。
規模は小さいが、特殊陶業なども新規の事業が毎年およそ100億円の赤字を計上しているが、いわゆる先行投資を10年積み上げることで次世代の飯のタネにしていこうとしている。
カーボンゼロ社会を目指す動きは加速している。
われわれ投資家からみれば、先行投資をしなければ生き残れないという業界は多い。
飛行機はどうなる。電動化できるものはある。飛行船などが復活している。
ドローンは空飛ぶEVともいえるだろう。
だが、本格的なジェット機にはバイオ燃料などが使われるし、将来の水素燃料への過渡期にあるように思える。
より深刻なのは海運であろう。重油で動くという最悪の内燃機関がLNG燃料で駆動するようになり、最終的にはバイオや水素というものになるのであろう。
電車はこのままでよいが一部は水素になるであろう。
より深刻なのは石化であるが、効率的な化学合成が石化由来のものを使えなくなるとしたらどうなるのか。バイオプラントという小規模な実験室のようなミニプラントで実証しているようなものでは到底効率が合わない。
木材で代替できるところは木材でというのであるから、鉄の出番は限られる。
鉄でしかダメだという領域で頑張るしかないのだが、高炉より電炉のスクラップが好ましいとなるので、鉄の2重苦はこれから始まる。
プラスチックも同様だ。
数々の例外的な措置を経ながらも、カーボンゼロにどうやって行きつくのかは試行錯誤なのであろう。無理な移行は混乱を招いてしまう。
そうこうしているうちに、カーボンを原料とする分離精製能力が増強されていくのであろう。地球環境配慮の面からは、セメントやセラミックやガラスも好ましいとはいえない。
見通しがなかなか難しい時代ではあるが、明るい前向きな時代でもある。
肝心なことは、このカーボンゼロに参画する主役はグローバル企業だということだ。実際、グローバル企業間の競争は厳しい。
そこで中露と先進国と陣営を分けることで、過度なコンペティションにならないように緩和策を図らずもとっているとも見える。
中国のような国家がまるまる大規模な国家資金を拠出するような産業育成のやり方をされたら先進国の民間企業は太刀打ちできない。中国排除は地政学リスクというよりも民間産業保護の観点から画策されている。
日本もかつてLEDや液晶でひどい仕打ちを中国から受けたが、中国がそういう戦略をとっているうちは、各国とも自国の民営企業を防衛しようとしてしまう。
わたしからみたら、中国はグローバル規模での勝ち筋をすでに失っている。
これを先進国の民間企業の保護と見なせば、自国民は金持ち優遇と批判するかもしれない。しかし、これを中露の軍事的脅威と見なせば、自国民は大いに納得する。皮肉なことだ。
SNSの普及により、より一層、国民のマインドは容易にコントロールされるようになった。インフルエンサーという職種があるがごとく、だれもが共鳴し簡単に感化されてしまう時代。
自分の頭で考えるということができている人はどの程度いるのだろうか。
考えていても実行できない人はどの程度であろうか。
投資もインデックス中心のパッシブになってしまった。
生き方もみなと同じでなければ落ち着かないパッシブ的人間が主流だ。
このような70億人総受け身の時代には、習近平やプーチンやトランプのような輩は容易に台頭してくる。
実際には地球が危ないのであって、われわれがやるべき仕事は山のようにある。世界の人々のひとりひとりがどのようなプロジェクトにどのように参画していくのかは、ひとりひとりのグランドデザインをみなで考えなければならない。
消費者として生きるのではなく、創造者、考える提案者として能動的に生きることが求められる。
そうした前向きの生き方 ― そのひとつの有力なモデルケースが投資家モデルである。
投資家という元来の応援精神、共感精神において、意義ある企業をとことん応援するという気概が投資家には備わっている。投資は公益も私利も共に両立させてくれる。
こうした時代背景がある、とわたしは考えている。
その中でわたしたちは投資戦略を形作っていくわけである。
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
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