今週は、みっちりとESG評価に強いリンクスリサーチの小野社長からあるべきESG評価について意見を伺うことができました。

 欧州大手企業のESGスコアは総じて高いのですが、なぜ高いのかはHPなどからレポートを読み込む作業も必要になります。ブルームバーグやロイターですぐにとれるデータも多いが結果しか載せていないのです。個々のユニークな事例こそがストーリーとして響くわけです。ストーリーとして響けばエンゲージメントの際にも投資先経営者に響くかもしれないと思うのです。


 例としては、ノボ・ノルディスクはデンマークの大手製薬会社があります。
 たとえば彼らの採用基準をみると、男性45%で女性45%とある。
 残り10%はLGBTが活躍できる余地を残している!!!!

 さらに、養子縁組を行って里親となった社員には育児休暇が認めるとある!!!!

 こうした素敵な事例をわたしたちは取材先の企業にも話していきたい。

 「一人も取り残さない」というSDGsのスローガンにとって、重要なESG項目のひとつが新規雇用創出であり、これもスコアに影響を与える。
 ノボ・ノルディスクの場合は6-7%の社員増加を年率で達成しているのです。

 欧州の会社は管理職に占める女性比率は高いが、ノボ・ノルディスクのそれは41%と高い。一方で、日本企業は高いところでも30―40%程度です。低いところは一桁に留まっているという現状があります。

 ガバナンスではやはり株主の関与は重要であり、指名委員会では5%を超える株主が指名委員会に何人入っているかが重要なチェックリストになっているのです。この視点は、日本の場合、かなり立ち遅れています。


 面白いのは、寄付の総額もESGスコアにカウントされること。寄付をどれだけしたのかがスコアに反映されたりしているわけです。

 大企業は寄付を増やそうとしていてNGOやNPOで社会貢献活動を後押しするという時代の流れに乗っているのですね。

 地域社会スコアというものがあり、地域社会への貢献も数値に直される。
 社員にも善良な市民としての活動が求められています。


 ただし、素晴らしいスコアを出している欧州の会社ではあるが、個別にみれば課題も大きい。

 ノボ・ノルディスクの場合は、残念ながら、低評価になっている項目もあるのです。たとえば、それは動物実験、遺伝子組み換え、ES細胞の培養、などの項目です。

 また水を大切に扱うべきであるとの考えは強く、水の使用量はカーボンと同列に近いのです。


 イノベーション項目が低評価を生んでいることは、自然に近いものを人類は指向していることの結果であって、ES細胞のような「神の領域」へのやみくもな侵犯にはESGは後ろ向きであるということに留意が必要です。
 科学やテクノロジーへの信奉が強い日本企業が陥りやすいリスクです。
 そうはいっても、それを補うだけのメリットがあることを企業は社会に対して説明しなければなりません。


 自然とESGスコアが低くなるものもあります。

 原発への関わりは低評価に直結する。
 農薬や殺虫剤が売上の5%を超えてはいけないというスコア。
 必要悪への厳しい評価は株価にも影響するでしょう。


 つまり、企業は、たとえば動物実験の量を将来どのように具体的に減らしていくのかを発表していかなければならないわけです。
 また、原発への関わりも売上の5%以上ならそれを段階的に減らしていくことが経営の方向性となるでしょう。


 ESGの方向性に逆らった長期投資は結構厳しいのではないかと感想をわたしは持つのです。ただ、案外、そうではなく、残存者利益を謳歌してそのキャッシュフローで業態転換をしていくという昨今の資源株のアウトパフォームのパターンもあるので、一概に、石化だからダメ、原発だからダメとは断言できないのです。

 ただ、わたしは、やはり石化や原発を推奨するような投資家にはなりたくない。


 頭の痛い問題はリサイクルで、医療廃棄物などは扱いが難しい。
 リサイクル業者はかなり伸びるのではないでしょうか。


 ガバナンスの取締役会要件としては社外取締役の比率は重要な指標だが、あまり知られていないものには、取締役会の中でも専門家の比率がESGスコアとして課せられている。ボードの中での専門家の比率なども対象になっているのです。

 株式投資においては、いま、スコアが低くても、将来にそのスコアが上がっていけばよいのですが、その場合においても、コストアップや効率の低下を招き、業績の足かせになるわけだから、単純に低い方が改善の余地があるからよいとは言えない。そこが難しいところです。

 よい変化をしながら業績も拡大できるような先が投資先としてはふさわしいでしょう。


(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)


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