株式市場には3900ほどの銘柄が上場して取引されていますが、そのすべての銘柄が上昇する、いわゆる全面高の展開となることは滅多にありません。
それぞれの銘柄ごとに活躍の時期は異なり、あれほど人気化した銘柄が何事もなかったかのように忘れ去られることなどは日常茶飯事です。

 先日の株式同好会の集まりではアンジェス(4563)の話に及びました。
 かつて筆者も同社のレポートを書いたりしたことがありましたし、コロナ禍での国産ワクチン開発で安値375円から4カ月で2492円まで6.6倍になった銘柄で多くの個人投資家の皆さんが高値掴みしたと推察される因縁の銘柄です。
 すっかり忘れ去られた銘柄なので今どのぐらいの株価なのかと見てみたら何と95円。それでも時価総額は182億円。創薬ベンチャー特有のR&Dへの投資で赤字が続いていますので仕方ないとは言え、その株価水準には愕然としてしまいます。
 データだけ見れば同社もPBR0.64倍ではありますが、見るべき資産があるとすれば知的財産のみ。市場で調達した資金の大半は費用として消えており、致し方ありません。
 高値掴みの投資家各位も今更なす術もなく唖然として見ているほかはない状況です。


 こうした不毛の創薬ベンチャーが典型ですが、グロース市場にはそうしたかつて活躍はしたがその後忘れ去られた銘柄が存在しており、二極化相場で人気化している銘柄とは対極に位置しています。
 市場にはPER10倍以下、PBR1倍以下、配当利回り3%以上といった銘柄群が数多く存在し、一方でその対極にあるPER40倍以上、PBR2倍以上、無配銘柄なども混在しており、投資家は割安感のある利益が伴っているか資産内容が良好な銘柄を指向して売買をしてきたと言えます。
 それとは対極にある銘柄は見向きもされずにきたのがマザーズ指数低迷になって表れています。

 日本を代表する企業に投資しておけば着実に運用成果が上がるのに敢えてそうしたベンチャー型の新興銘柄になど投資すべきではないというのがこのところの運用結果となっています。しかしながら相場は変化していくのも事実です。

 コロナ禍では寄らば大樹の陰で、日本の半導体産業や様々な分野の大手企業、225採用の値がさ銘柄、誰でも知っているトヨタ、NTT、三菱UFJ、大手商社株などにお金が向かってきましたが、これらの銘柄群の株価水準が高まり割安感が薄れてくれば、また潮流が変わることも考えられますが、現実問題としてはそうした潮流が訪れるには時間を要します。

 ベンチャー型の企業への投資家にはリスクが付き物。一方では安心感のある主力株は拡大NISAの下でますます新たな資金が向かうとも考えられます。


 それでも敢えて忘れ去られてきたグロース市場銘柄に挑戦しようという皆さんもお見えかと思います。実は筆者も密かに銘柄研究している最中ではあります。

 その際のポイントはやはり確度の高い利益成長性、ビジネスモデルの良さ、財務の健全性などです。それに株価の位置を加味しながら選定していく必要があります。
 その忘れ去られた銘柄の多くは長期に下落傾向を辿っており、投資によるリターンを上げるには相当の覚悟が必要です。

 現在の潮流が変化するか、そうした企業の業績が飛躍的に伸びるかどちらかでないと大きなリターンを上げるのは難しいかと思われますが、これから成長志向でIPOしようと考えているベンチャー型企業にとってもグロース市場銘柄がいつまでも低迷したままでは意欲が湧かないことにもなります。

 余裕の生まれた皆様の投資対象となるのかどうかは銘柄次第なのかも知れませんが、この億の近道でもそうした忘れ去られたグロース市場銘柄を時々は取り上げて参りたいと思っております。


【参考:長期株価低迷中の注目グロース銘柄】


1)すららネット(3998)

 低学力の子どもや帰国子女、外国人向けのオンライン学習教材を提供。
 東京都が整備するバーチャルラーニングプラットフォーム(VLP)に導入されることになったが株価は無反応。
 2020年に発生したコロナ禍で注目されたGIGAスクールやオンライン教育関連で株価は558円(2019年10月)から9350円(2020年10月)まで1年で16.7倍となったが、その後株価は3年間の下落傾向を辿ってきた。9月の安値は588円でほぼ故郷帰りの状態。
 この間、営業利益は5億円前後で高水準ながら2期連続の減益となり、今期も減益見通しで無配株ということもあり低迷してきたが、GIGAスクール構想開始後のPCの入れ替えが2025年度から2026年度に予定されており、それに合わせてオンライン教材のバージョンアップに向け開発中でそのための費用計上がこのところの業績停滞につながっており、これが株価の低迷にもつながっている。
 時価608円 今期予想PER14.8倍 PBR1.94倍 無配


2)CYBER DYNE(7779)

 筑波大発ベンチャーとして2014年3月にIPO。
 ロボットスーツ「HAL」の開発企業で市場は日本だけでなく世界に広がる。
 海外売上が53%。自ら他のベンチャー企業に投資してリターンを上げるVCとしても活動。
 上場して2年後の2016年6月に高値2629円をつけた後は株価の下落トレンドが続き、8月には267円という安値をつけた。
 時価総額は589億円という水準で売上こそ着実に伸びてはいるが営業赤字の状態が続いており、下値模索が続いている。但し、流動性は高く時折株価は変動を見せている。
 時価270円。PBR1.35倍 無配


3)オプティム(3694・P)

 佐賀大発ベンチャーとして2014年10月にIPO。現在はプライム銘柄。
 IoTプラットフォームサービスを主力にIT×◎◎というコンセプトでDX化を支援。農業子会社を設立するなど農業関連ビジネスにも参入。保有特許豊富で業績は着実に拡大中。
 今期売上高102億円、営業利益19.4億円、株式分割でEPSは20円と低水準ながらIPO以降、安定した収益拡大傾向が続いている。
 IPO後2015年から2020年にかけ4回の株式分割を実施し発行済み株式数が32倍となる中、長期の株価上昇が続き、2020年8月に分割換算高値3840円まで上昇したが、その高値から2022年6月には安値677円まで売られ、一旦は1279円まで戻ったものの今年も9月に807円まで売られ2番底形成の動き。
 時価849円 時価総額470億円
 予想PER42倍、PBR7.7倍、無配。


 以上の3銘柄の事例でもわかるように期待先行で過剰に買われた銘柄はその後のダイナミックな利益成長が見られないと下落傾向に入り、長期低迷につながることになる。


(炎)


(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)


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