口に入れたときのハイな気分、収集欲をかき立てるパッケージ、なんだったらメッセージ性。連載「スナック・タイム」では、文筆家・甲斐みのりさんが、男の空腹を満たすためだけではない「嗜好品」としての食べものを紹介。第2回は、名古屋の喫茶室「ボンボン」の焼き菓子(ペルチクス)。

個性的な喫茶店が多いことで知られる名古屋で私がとりわけ好きな店は、洋菓子店の喫茶室「ボンボン」。客席数は80とたっぷりの広さで、窓際の席はアメリカのドライブインのような雰囲気。奥の席は昭和の豪邸の応接間のようで、複数人でもゆったりと寛げる。 

歳を重ねた男性たちが雰囲気つくる喫茶室

面白いのは、客の大半が歳を重ねた男性客であること。同じビルの中にある洋菓子店のケーキを食べることができるので、もちろん女性客もいることはいるけれど、あたりの目を気にせず甘いものを頬張るおじさまたちから放たれる独特の口福オーラで、いつでも満席に近い店内が輝いて見える。

何度か昼間の3時頃に立ち寄ったことがあるのだけれど、他の洋菓子店や喫茶室なら、女の園の時間帯。しかし、ボンボンは、新聞を広げて自宅の居間のように過ごす人、向かい合って夢中でおしゃべりする二人、黙々とケーキを口に運ぶ人、やっぱり男性たちがこの店の他にはない雰囲気を作り上げている。

『なごやのたからもの』という本にも書いたボンボンの歴史。最初のきっかけは第一次世界大戦時に、先々代がドイツ人捕虜から菓子やパンの製造法を習い、ドイツ風のカフェを開いたこと。戦後に焼け野原だった名古屋で卸しのみの製菓店を開き、昭和30年に洋菓子の店売りや喫茶室を始めた。

プラスチックの透明容器に、クマ。とっておきの名古屋みやげ

クマのシールを貼ったプラスチックの透明の容器に、ぎゅっと詰め込まれた焼き菓子は、アーモンドの風味をきかせた「ペルチクス(ペルティクス)」。しっかりさっくり歯ごたえがあって、コーヒーや紅茶のお供にぴったり。ボンボンの洋菓子コーナーで販売しているのを、友人がおみやげにと届けてくれた。

一見すると愛らしい佇まいをしているけれど、ボンボンのお菓子は、ふくよかで愛嬌があって、コーヒー好きや甘党の男性によく似合う。身近な右党に買って帰りたくなる、とっておきの名古屋みやげだ。

[ボンボン]

photo by Ryuichiro Suzuki

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