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【さんたく!!!朗読部『羊たちの標本』】ショートストーリー第六話『秋のスープ』
2019-09-30 18:30さんたく!!!朗読部『羊たちの標本』ショートストーリーをチャンネル会員限定にてブロマガで順次配信。第六話『秋のスープ』
(作:古樹佳夜)------------------------------------
◆◆月見草とスープ◆◆
まん丸で真っ白い、お月様だ。おまんじゅうに見える。いや……マシュマロかな?
半分のお月様はおやつのパンケーキ。
三日月はかじっちゃったクッキーの形。
……ああ、お腹減ったなぁ……。「海月君、またですか?」
「お、お腹の虫がぐぅ〜って鳴いてる」
「だ〜って、夕飯足んないんだもん……」
隣に座っているのは、いつものようにスケッチをしている羊と、月明かりで読書をしている月兎だ。
「ゆ、夕ご飯いっぱい食べてたじゃない……」
「はい。あれから二時間くらいしか経ってないです」二人とも僕を呆れた目で見つめている。
ちょっと、そんな顔する事ないじゃん?
「あのさ、僕だって好きでお腹減るわけじゃないんだよ?生まれつきこうなんだ。
羊が急に眠くなって気を失っちゃったり、
月兎がお日様に当たると動けなくなっちゃうのと一緒なんだ」
そう、我慢しようったって上手くいくはずない。細かいメカニズムはわかんないけど、人それぞれ変えようもない特徴ってのがある。それに対してとやかく文句をつけるのは、バカバカしい。考えるだけ無駄ってもんだ。
「ん〜……それはとても辛いですね」
「う、うん……。み、海月君……わかってあげてなくて……その……ご、ごめんね?」
「へへ。わかればいいんだよ」
鈴に同じ事を言ったらため息をつかれたけど、さすが、二人は親友だね。僕の気持ちをちゃんと理解してくれたみたいだ。
「あ〜あ。それにしたって、お腹減った。
食堂に何か残ってないかなぁ」
「ないと思いますけど……」
「す、鈴兄が『海月が食べ過ぎるから』って、
厨房の食料庫に、か、鍵をつけていたよ」
「え!? 鈴ったら何てことを〜〜!」
「鈴君は食べ過ぎを心配しているんだと思います」
「そんなの知らない!」
プイッと顔を背けると羊が顔を覗き込んできた。嗜められているみたいだ。
「もういいよ!」
僕は庭の奥に歩いて行く。
「海月君、どこに行くんですか?」
「庭の食べものを探すの。もしかしたら果物が生ってるかもしれない」
「お、怒られるよ……。か、葛君のことで、
鈴兄、いつもよりピリピリしてるから……
み、見つかったら、大変……」
「本当は庭に出るのも止められましたからね」
「で、でも、庭先に三人で居るくらいなら……
ゆ、許してくれるとおも、思う。
でも、出歩いたら……」
「う……」
葛……あいつは神出鬼没で、怖い。何考えてるかもわかんないし、恐ろしい殺人鬼だ。二人の言葉を聞いて少しだけビビってしまった。
「月兎君も葛君が怖いんですか?」
「ち、違う……鈴兄に怒られるのが……
嫌なだけ……」
月兎は鈴のことを誰よりも信頼している。だから、なるべく言いつけを守ろうとするんだ。鈴も月兎を弟みたいに可愛がる。本当にお互い『兄弟』とでも思っているのかな?たった2つしか違わないのに。だいたい、色々行動を指図したり、鈴は偉そうなんだよね! 僕のことは弟じゃなくて子分と勘違いしてるかも?
「……なんか、腹立ってきた」「え、な、なんで?」
「お腹空きすぎてですか?」
「違う!!」
『グゥ〜キュキュ』
腹の虫が盛大に鳴った。
「ふふっ!」
不意を突かれて羊が噴き出した。つられて月兎もくっくっと肩を震わせている。
「言ってることと全然違うじゃないですか」
羊は珍しくお腹を抱えて笑っていた。僕はそれが悔しくて、頬を膨らませる。
「ねえ! 笑ってないで二人も食べ物探し手伝って!」「え、え〜……」
「そうだ、三人で探そうよ。それなら安心でしょ?」
ようやく笑い終わった羊は、ふう、と息をついた。
「わかりました。でも、月明かりだけでは少し心もとないです。ランプを持ってくるので……」
「よ、羊君……その心配は……ないみたい」
「え……」
月兎は僕を指差した。ハッとして自分の身体を見渡してみる。気づかなかったけど、僕はさっきから光っていたみたいだ。
「これなら夜の庭でも歩けますね」
そう言って羊は笑った。
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