人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。
 切手を夢中になって集めていたのは小学生の頃。
“日本切手カタログ”という専門誌で自分の持っている切手の価値を調べるのが、また、楽しかった。
 今で言うトレーディング・カード(トレカ)のようなもの。僕は決して売ったりはしなかったけど、クラスメイトの同志に、
「この国定公園シリーズ3枚とではどうや?」などと、交換条件を出した。
 当然、狙いは先方の持つ価値がある切手だが、そうはうまくはいかない。先方もそのカタログを熟読していたからだ。
「お前、何アホなこと言うとるんや。この“にしあまね”はなぁー」
 と、すぐさま切手講釈が始まってしまう。
『西周』と書いて、にしあまね。何の偉業を成し遂げた人なのかは知らないけど、文化人シリーズ切手の中ではズバ抜けて価値が高かった。 
週刊文春デジタル