「ありがとう」「ごめんなさい」の二つはちゃんと言えるようにしなさい。こう口を酸っぱくして教えられてきた。教えたのは妻だ。妻自身は、わたしに対してどちらのことばも使ったことはない。
わたしは感謝も謝罪も数えきれないほど表明させられてきたため、いまでは心の中で鼻歌を歌いながら口に出せるまでになった。そのため、謝らなくてはならないとき、にこやかな顔を作って「ありがとう!」と言って激怒されたほどだ。
なぜ感謝しなくてはならないのか。人間関係を円満にするためだと言う人がいるが、本当だろうか。むしろ「好意でやってくれたのかと思ったら感謝がほしいだけだったのか。感謝しない相手は助けないのか」という不信感が芽生えるのではなかろうか。