前回述べたように、一九六〇年代後半から岡本喜八監督は多くの大作映画を撮っている。だが、当人の居心地が悪かったのもあるし、主戦場だった東宝を始めとする日本映画界全体が新たな鉱脈を求めて迷走していたのもある。「大監督」の期間は短く、七一年の『激動の昭和史 沖縄決戦』を最後にその作品は再びカオスを帯びていった。
 七〇年代末は近未来のディストピアを描くポリティカルサスペンス『ブルークリスマス』や特攻隊員になる野球部員たちを描く『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』と、珍しくコメディ色の全くない作品を続けて監督している。こうしたシリアスな作品を続けた後は必ず、その反動のようにブッ飛んだコメディ映画を思うままに撮る。それがこの監督のフィルモグラフィだ。 
週刊文春デジタル