──「ニコニコチャンネル」をご覧の皆さま、こんにちは。「週刊文春」デジタル特別企画、池上彰×川上量生特別対談「メディアの未来について」、本日司会進行をさせていただきます、「週刊文春」の編集部の井崎彩と申します。よろしくお願いいたします。
 まずは「週刊文春」デジタルについてご案内をさせていただきます。「週刊文春」デジタルは、二〇一四年四月から「ニコニコチャンネル」にて開始した月額会員制のウェブ・サービスです。月額八百六十四円で「週刊文春」のスクープ記事を、パソコン、スマートフォンで読むことができます。最近では今日ご登場いただいてます池上彰さんの朝日新聞の連載が掲載拒否になるという報道で、大変話題を集めました。
 それではさっそく紹介をさせていただきます。
 ジャーナリストで東京工業大学リベラルアーツ専任教授の池上彰さん。
 株式会社KADOKAWA・DWONGO代表取締役会長の池上……川上量生さんです。
 よろしくお願いします。

 川上 いきなり、大丈夫ですかね。

 ──慣れてないもので。

 池上 出版社、これからこういうことに慣れなきゃダメですよ。

 ──はい、頑張ります。それでは早速ですが、十月一日にKADOKAWAとドワンゴが経営統合して誕生したKADOKAWA・DWANGOの代表取締役会長・川上量生さんと、東京工業大学教授でジャーナリストの池上彰さんの対談です。
 注目されるお二人に本日お話をお伺いできるのが楽しみです。
 今日はお二人が実は初対面だと。

 池上 まったく初めてですね。

 川上 いや、池上さんにはずっと「ニコニコ」には出演していただきたいと、何度も何度もお願いしていたんです。こういうこと初めて?

 池上 いえいえ、僕はここで津田大介さんとやったことがあります。自社のことをご存じないんですか(笑)。

 川上 そういうんじゃないんですね。ビジュアルな感じ、もっとリアル感をもって、いろいろやってみたいなと思います。

 池上 あ、そういう趣旨ですね。そういう趣旨はこういうところでなくて別の場所で(笑)。

 ──今日のテーマは、「メディアの未来について」ということなんですけれども、お二人それぞれ、今日切り込んでいきたいテーマがあるというふうにお伺いしているんですけれども、早速、池上さんのほうから……。

 池上 切り込んでいきたいテーマ、べつに何もないんです(笑)。でも、この際だからいろいろ聞きたいことは確かにありますね。ま、初対面ということもありまして、お子さんご誕生、おめでとうございます。

 川上 ありがとうございます。

 池上 「週刊文春」の連載で、そんなことばかり書いてたんですね。

 川上 そうですね。ぼくは連載も一年か二年ぐらいですが、ネタがなくなってきて、ほんと、毎週すごく困ってるんですね。だから締め切りの翌日ぐらいにいつも書いてたんです、一日遅れで。

 池上 大丈夫です。出版社はね、だいたいサバ読んでますから(笑)。私、締め切り守って原稿書くでしょ。二日くらいたってから、「あのお……」とか言ってきますから(笑)。大丈夫です。

 川上 締め切りに出しても見てくれないんです。それで子どもが生まれたから一カ月分ぐらいまとめて、ストック作って出したらね、今週はカドカワ・ドワンゴの統合の話をしてないからとクレームが入って。

 池上 なるほど。クレームつけられたら、反発して「連載打ち切り」とか言わなかったんですか(笑)。

 川上 どうしても子どもの話をしたいんだと、特定の話をしたいんだと。

 池上 そういうことなんですね。あんまりそんなことやってると、いいかげんにしろという話になるので。実は昨日、わが家に手紙が届きまして。「謹啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別なご高配を賜り、厚く御礼申し上げます」と。べつにご高配したつもりはないんですけど、KADOKAWA・DWANGOからの企業統合挨拶状というのが来ましてね。

 川上 あ、そんなの出してんですか。

 池上 ええ。出してるの知らないんでしょ。

 川上 知らないです。

 池上 知らないでしょうね。これは明らかに私のほうは角川系から来てるんだと思うんですけど。だって「謹啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます」と、こういう文章ドワンゴの人が書いたんじゃなくて、これは明らかにKADOKAWAが書いてるんだろうなと。

 川上 書ける人いませんね、うちの会社には。そんな長い文章書けない。

 池上 でね、何をやるかということが書いてあるんですけど、「これまて両社が強みとしてきた事業分野に着実に取り組んでいくと共に、両社のリソースを持ち寄ることで、より魅力的なコンテンツの提供や、各種プラットフォーム事業の開発を進め、企業価値向上に邁進致す所存でございますので、何とぞ倍旧のご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます」と。ドワンゴ絶対書かないですね。

 川上 まったく中身のない言葉ですね。

 池上 それでね、「より魅力的なコンテンツの提供」ということは、あ、これまでのコンテンツ、魅力的だったんだって(笑)。           

 川上 ああ。まあ、そうでしょうね。魅力的だったんですよ。

 池上 で、「より魅力的なコンテンツの提供や、各種プラットフォーム事業の開発を進め」って、何をやるんですか。

 川上 何を指しているんでしょうね。各種といったって全然よくわからないです。ほんとね、この前も「文春」にKADOKAWA・DWANGOのことを書いていただいたじゃないですか。あれはちょっと感動したんですけど、池上さんてほんとにストレートにいろんなことを言うじゃないですか。で、KADOKAWA・DWANGOとしてどんなことを言われるのかと思って読んでみたんですけど、ほんと、普通のことしか書いてなくて、あ、池上さんて普通のことを書くのが売りのジャーナリストだったんだということを、あらためて自分のことを書いて初めてわかったんですけど。

 池上 私はほんとに真っ当な常識人ですよ。常識的なことしか言ってないもん。

 川上 そう、常識的なことしか書かないんですよね。

 池上 というよりも、ようわからないんですよ。何をやるんですか? このKADOKAWAとドワンゴというまったく違う企業風土でまったく違う仕事をしてきたのに、一緒になって何をやるのかよくわからないまま、手さぐりで書いたんですけど、このさいだからここではっきり聞いてみようと、こういうことなんですね。

 川上 ほんとにみんなに信じてもらえないんですけど、ほんとに何も考えてないんですよ。

 池上 ああ、そう言うだろうと思ったんです。「何をやるんですか」「いや、私もわからないんですよ」っていう答えが返ってくるに違いないと思って今日来たんですが、やっぱりそうでしたね。

 川上 そうなんですね。これはほんとのことなんだけど、毎回言ってるたびに自分が情けない人間のように思えるんで、同じことを言うのはいやなんですけど。

 池上 じゃ違うことを言いましょう。

 川上 違うことですか。でも、なんか昔は競争いやだったんですね。競争がいやで、企業で競争するために何が重要なのかということをすごく考えて、僕が見つけ出した法則があるんです。これは絶対正しいと思ってんですけど、自分にもわからないことは競争相手にも絶対わからない、という法則なんですね。これは絶対正しいと思うんですね。

 池上 それはそうだ。

 川上 でしょう。で、これのときも無茶苦茶なことを言ってるように思うんだけども、実際にそういうことを実行に移しているクリエイターの人がいるんですね。実際食えない人があって、自分にもよくわからないものを作ったりするじゃないですか。それはわざと自分にもわからないふうにしてるわけですね。それでミステリーとか書いてる人で、読者にトリックがわからないようにするために、自分にもわからないトリックとか作ったりしますね。

 池上 あります、あります。

 川上 それはテクニックとしてありますよね。

 池上 あります。

 川上 そのテクニックは経営にも使えるんじゃないかと思っていて、自分にもどうしたらいいのかわからない戦略を立てる。

 池上 つまり自分である程度推測できるようなことは、ライバル企業はどうせ考えつくだろうと。

 川上 そうです、そうです。そのときに同じようにわからないんだけども、さすがに当事者だから、いろんな情報とかは多く入ってくるし早く入ってくるじゃないですか。そうしたらもうあと反射神経だけでやっていったら、まあ、回りが思う以上のことはきっとできないでしょう。

 池上 なるほどねえ。

 川上 という理屈なんですね。

 池上 いや、それだと、川上さんはいいですよ。社員はもう右往左往、戸惑うばかりじゃないですか。

 川上 だから僕は社員に説明しないから大丈夫です。

 池上 説明しない?(笑)。説明しないから大丈夫ですって、それは説明のしようがないですよね。

 川上 でも、その中でも出てくる理屈とか説明するんですけど、僕が考えてる理屈とかって、やっぱりちょっと無理な理屈が多いんです。で、社内に説明しても伝わらないんですね。伝わらないから説明する必要もないやと。まあ、説明してもいいんですけどね。

 池上 それはアイデアが常人ではとても考えつかない、とんでもないアイデアが浮かんでるからみんなに説明できないのか、単に説明能力が不足しているだけなのか、どっちなんですか。

 川上 いや、僕ね、説明能力けっこうあるんです。

 池上 ほいほい。

 川上 で、やっぱりやろうとしていることが無茶苦茶なんだと思うんです。伝える内容に問題があります。だから何ていうんですか……例えば「超会議」だって、あれ何でやってるかといったら、ユーザーにだいたい小さいあれだから、「ニコニコ」の一部しかやってないって文句言われて、文句を言われないぐらいに、でかい箱ですべてを詰め込んだやつを作って、「これだったら文句ないだろう」っていうことを言いたいだけなんですね。

 池上 アハハハ、なるほど。

 川上 原点はそこにあって、それでそれをやっても大丈夫かなと思ったのは、世の中にそんな無茶苦茶やる人って、バブルの頃はけっこうあったけど、今はそういうのないじゃないですか。

 池上 ないですね。

 川上 だから今やったら目立つだろうなと思ったんですね。

 池上 なるほど。

 川上 そうしたら宣伝効果で何となく元が取れるんじゃないかなあというふうな、何となくの勘でやってるんですよ。

 池上 それって動物的な勘ですか。

 川上 いや、僕はもっと知性に基づいた勘だと自分では思ってるんですけど(笑)。

 池上 しかしね、経営者論で言えば、社員がどうしていいかわからない、着いてこられないようなアイデアでどんどん行くって、いわゆるほんとに独裁企業で時々ありますよね。それってなかなか長続きしないんですけど、どうするんですか。

 川上 あのね、僕ね、独善的にものは決めるんですけど、独裁じゃないんですよ。

 
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