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おくやまです。
いよいよ2017年が明けました。
新年にあたっての雑感などを少し。
去年の後半はクラウゼヴィッツ本の訳でかなり忙しく、
ろくに発信もできなかったことが心残りでした。
よって本年の私のテーマは「発信」となります。
すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、
クラウゼヴィッツ本の後には
米英の春夏秋冬の歴史のリズムから見た
未来予測本の翻訳のほかに、
『現代の軍事戦略入門』の改訂版の翻訳、
元コースメイトの孫子本やグレイの新刊の翻訳、
それにルトワックの『中国5.0』(仮題)のほかに
『クーデター入門』の改訂版など、
たまっていた訳本の出版が続くことになります。
また、絶版になっていた本も
再販されそうな雰囲気が出てきておりますので、
もしかしたら出版ラッシュになるかもしれません。
ただし、本腰を入れなければならないのが、
やはり『地政学入門』的な私の自著であります。
これはここ数年の課題ですね。
さて、ここで本題。
昨年を振り返って考えてみると、
やはりルトワックを色々とインタビューする上で身につけた
戦略論の知識がとても役に立ったように思います。
その中でもとくに印象的だったものが二つあります。
一つは、いくら戦術レベルですごくても、
大戦略レベルで負けていたらすべて相殺されてしまう
という話です。
つまりある国がいくら軍事的にすごい力や能力を持っていたとしても、
外交的に失敗して、不利な同盟関係を結んでいたり、
そもそも同盟をほとんどもたない状態で戦ってしまえば、
結果的に勝てなくなってしまう、
という当然といえば当然のことです。
もちろん「軍事的天才」のような人物はいるでしょう。
それでも彼らは大戦略のレベルで負けていたら、
単なる「戦術家」でという評価しか得られないわけで、
まさにこれは「戦略の階層」が教えていることに他なりません。
このような話は、グレイを始めとする
私が教育を受けてきたあらゆる戦略論の中では
間接的に触れられてきたわけですが、
個人的にはルトワックほど雄弁かつ説得力を持って、
このような大戦略の優位性というものを
語っていた人物はおりませんでした。
その典型的な例が、『中国4.0』にも出てきた
「海洋力vs海軍力」という概念の対比です。
これは中国が艦船の数のような
ハード面で日米を凌駕するような勢いを持っているにもかかわらず、
その本来の力を発揮するために必要な
同盟関係や艦船のための寄港地などの数が
決定的に欠けているために、
そのハード面がまったくいないということを指摘したものです。
この同盟関係のことを、ルトワックは
「海洋力」(maritime power)と呼んだわけですが、
これはとりもなおさず大戦略の優位性をそのまま表現したもの。
つまり艦船の数などで決定される
「海軍力」(naval power)は軍事戦略レベルまでであり、
これをいくら持っていても、その上の外交や同盟関係で決定される
大戦略レベルで負けていると、全く効果を発揮できないというのです。
このようなことは、なんとなく感覚的に
わかっている人間はたくさんいるのでしょうが、
戦略家というと、どうしても軍事だけに焦点が向かいがちです。
ところがルトワックは戦術レベルや技術レベルに感心をいだきつつも、
常に向けられているのは戦争を勝つという大戦略以上のレベル。
デビュー作こそ『クーデター入門』でしたが、
さすがに博士号論文ではローマの大戦略を分析したものや、
ソ連、さらにはビザンツ帝国の大戦略を研究しているために、
単なる軍事ではなく、同盟関係や外交や経済のレベルまで見る習慣が
身についているということなのでしょうか。
ということで、
2017年はどこまで発信できるかわかりませんが、
春先に出版する予定のルトワック本にも
注目していただければと考えております。
本年もよろしくお願いします。
( おくやま )
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