館山からもう2週間が過ぎてしまったけれど、楽しかった時間は鮮明に残っている。

今回も引き続き館山を観た様子、そして時々タイムスリップして想い浮かべた記憶などを綴ってみたい。



前の晩、2軒目のお店で楽しく話をしながらバーボンを沢山飲んでしまったためか、朝、ホテルで目覚めると、久しぶりの二日酔いだった。

典型的なビジネスホテル特有の、少し甘い部屋の香り。

薄暗いけれど、カーテンの隙間からは明るい陽射しが漏れている。

何度か起きようとしながらもまた布団に潜ってしまう。

こういうビジネスホテルって久しぶりだなあ、と思いながら10分程ぐずぐずして、やっと起きる気になったところで、頭痛を収めるために冷たい水とフルーツ、そしてバファリンを身体に入れる。

カーテンを勢いよく開くと、真っ青な空と眩しい陽の光が飛び込んでくる。

窓を開けてきれいな空気を吸い込んでから、熱いシャワーを浴びにバスルームのドアを開けた途端、ビジネスホテルの記憶のほとんどが、『あの頃』の記憶なんだと気がついた。

僕は普段、プライベートではビジネスホテルは使わないし、海外には日本のビジネスホテルはない。

そうか・・・だからだ!

昨夜僕が、気持よく酔いながらこの部屋に戻ってから寝るまで、ずっと『あの頃』の記憶を辿っていたのは、ここが館山で、皆さんとYOSHIKIとTOSHIの話をしていたからだ、と思っていた。

でも、その理由はきっとここがビジネスホテルだったからなんだ。

あの頃の僕は、ツアーの同行、プロモーション・キャンペーンなどで、全国いたるところのビジネスホテルで朝を迎えていた。

そしてその朝は決まって今朝のように二日酔いだった。

でも・・・。

熱いシャワーを浴びながら、僕は気づいた。

もっと幸せなことがあった。

二日酔いの原因でもある、前の晩、浴びるようにお酒を飲みながら、色々な人と語り合う時間・・・。

それが、昨日の夜も、あの頃も、全く同じだったということだ。


あの頃、僕はそんな夜の時間を、日本中の色々な場所で過ごしながら、ビジネスホテルへ戻って寝る前、自分がいつも深い幸福感に包まれることを、不思議に思っていた。

メンバーとの打ち上げは勿論だけど、その地方のメディアの人たちや、その土地ならではの大切にしなければ行けない人たち、メンバーの友人など、様々な人たちと酒を飲み交わしながら、Xというバンドについて熱い会話を交わしていた。

その内容がどんな方向に発展しようが、僕は構わず、Xというバンドとメンバーの魅力を熱く語り、未来への想いを伝えていた気がする。

また、そうやって熱く語り合っているうちに、相手の悩みや相談を聞くはめになり、僕なりの考えを話すような事も、常々あった記憶がある。

そうやってさんざん語り合った後、ビジネスホテルに戻る時、そしてひとりになって寝る前に、僕はいつもいつも、深い幸福感に包まれていた。

当時の僕は、自分が「輝く未来」を信じていて、そこへ少しずつ近づいている、と感じていたこと、そして自分らしい生きかたを貫き通している、と思えたことが、その幸福感の理由だと思っていた。

でも、昨日の夜を思い出して、僕はもうひとつの理由があることに気づいた。

それは、XというバンドやYOSHIKIという人間、あるい自分の生きかたについて共通している、とても大切なことだった。

『嘘をつかない生きかた』

きっとこれなのだろう。

だって、あの頃の僕たちは夜、みんなとお酒を飲むとき以外は、常に闘っていたんだから。

しかもそれは、とてつもなく厳しい闘いの連続だったのだから。

闘いの日々を通して、常に自分たちに納得しながら、自信を持って前へ進んでいられたのは、
誰かから何かをもらっていたからではない。
ラッキーなことをゲットしたからでもない。
すぐに成功を収めたからでもない。
現状に満足していたからでもない。

むしろ、そういったこととは、僕達は常に無縁だった。

志が高くて、目標が本当に遠いところにあったからだ。

だとしたら・・・。

あの頃僕が感じていた幸福感は、その闘いの最中、どんなに辛くても、自分たちの可能性を信じて、自らを見失う事なく、自分らしい生きかたを貫き通すために・・・

『絶対に嘘をつかない』ことを

大切にしていたからなのではないだろうか。




ビジネスホテルを出ると、迎えに来てくれた小山さんに挨拶をして、僕は車の助手席に座った。

多少二日酔い気味で・・・と話す僕に笑いながら、小山さんは提案した。

「まずは海へ行きませんか?」

突然、幸せに心を満たされた僕は、即答した。

「ぜひ、お願いします! 海、行きましょう!」

車をスタートさせ、とびきり陽気に、YOSHIKIとTOSHIにまつわる話を始めた小山さんの声を聞きながら、僕はこの青い空と、新緑の季節ならではの清々しい風の中、YOSHIKIとTOSHIの育った空気を感じながら、『嘘をつかない生きかた』について想いを巡らせる一日になるだろうな、と感じていた。

(つづく)