僕が音楽に目覚めたのは、バッハの曲がきっかけでした。

 小学4年の頃。
 毎日、同じことの繰り返しにうんざりしていて、未来に希望はあるものの、その未来を
自分自身が創っていく方法も鍵もまだ見つからず、もしかしたら灰色の毎日が限りなく続
くだけの、つまらない人生をこれから何十年も送っていくのかな、そんな不安が時々よぎ
る頃でした。

 その日の音楽の授業は、音楽鑑賞でした。
 流れ出したのは、バッハの「小フーガト短調」
 それを聴いた途端、僕は胸が苦しくなって、机に突っ伏していました。
 そして、生まれて初めての感覚を、はっきりと意識しました。
 「心臓から涙が流れている。体が感動で泣いている・・・」
 
 音楽で、体が変わるほどの感動を得ることを初めて知った日でした。

 それからは、大好きだったベートーベンやチャイコフスキーのレコードの聴き方も、気
がつくと少し変わっていきました。
 聴きながら、何となく「心が泣く」ような瞬間を探すようになったのです。
 そうすると、今まで気がつかなかったところに、そのポイントはいくつもありました。
 そして、その切ない旋律や美しいハーモニー、心を震わせる和音の響きが、自分の心を
浄化してくれて、おまけに強いエネルギーで満たしくれることに気づきました。
 
 その力を持っているのは、クラシック音楽だけではありませんでした。

 「Let It Be」がリピートで流れていたのは、ラジカセを選びに行った電気屋さんの店頭
でした。
 僕は目的を忘れ、聴いたことのないその曲を繰り返し聴き、そのメロディーの持つ魔力
に取り憑かれ、その場を動けなくなりました。そう、あの感覚が、延々と続くのです。
 その曲がビートルズというアーティストの作品だと知るのは、それから半年以上も先の
ことでした。何しろ、まだ小学生でしたから。

 その、身体が変わるほどの感動を与えてくれる音楽は、さらにもっと大きなものを僕に
与えてくれました。