閉じる
閉じる
×
決選大会が終わると、しばらくの間、各制作部や制作スタッフから、エントリーアーティストへの確認が相次ぐ。
まず、同じアーティストに複数のセクションから獲得希望がある場合は、その調整をするために制作部サイドとやり取りをしなければいけない。
また、決選大会でライブパフォーマンスを観た結果、審査の際には申し出はなかったけれど賞にもれたアーティストに興味を持つスタッフがいたり、契約やデビューは確約できないけれどアーティストと前向きに話がしてみたい、と考えるスタッフなどがいる場合は、該当するアーティストの情報を詳細に伝えつつ、そのコーディネートをしていく。
僕の担当はXだから早速、興味を持った制作スタッフと会い、コミュニケーションを取り始めた。
そもそも、今回Xに贈られた育成賞というのは、決選大会後も、我々SD事業部が継続的に制作セクションへプレゼンをし、契約へ結びつけていく、ということを意図したものだ。
そのためにも、僕は少しでもXに興味のあるスタッフと、どんどん会って会話を重ねていった。
やがて、会話を重ねることによって、とても興味深いことがわかってきた。
Xというバンドに対する見方や意見、感想に、各制作スタッフ間で共通点があるのだ。
まず、動員力やエネルギー溢れるインディーズ活動への評価からだろうか、現時点での実績を高く評価していること。
そして、バンドの音楽性がヘヴィーメタルやハードロックといったジャンルであることが重要な前提として扱われていること。
どちらも、至極当然のことだ。
事実だからだ。
ただ、もう一つ重要な共通点があった。
前の2つの共通点を前提として、なのだろうが・・・。
『Xは即戦力になるけれど、圧倒的なセールスをあげるメジャーなアーティストになるとは考えにくい』
という予想・・・。それが制作セクションの共通した見解だったのだ。
僕は積極的に色々なスタッフと話をして、この点にとても驚いた。
Xの話をしている時、スタッフはそれぞれの感性や見方であの不思議なバンドをとらえ、音楽性に触れ、メンバーのキャラクターについて話したり僕に聞いたりする。
その時点では、僕にとってそれぞれの人がとても好感触なのだが、大事な音楽プロデュース、アーティストプロデュースの話になると、結局みな、同じ結論に至ってしまう。
話の最後で必ず「あれれ?」と僕が感じる結果になってしまうのだ。
話の最後で必ず「あれれ?」と僕が感じる結果になってしまうのだ。
そんな風に、スタッフの方々のX評は僕にしてみれば疑問ばかりなのだが、尾崎豊にしろユニコーンにしろ佐野元春にしろ、僕が知っている制作の人達は、とても素晴らしいアーティストをプロデュースし、レベルの高い仕事をしている、むしろそのプロデュースに、いつも僕がたくさんのことを教わってきた人達なのだ。
それがなぜか、Xのことになると、ことごく僕には納得できない結論に至ってしまう。
当然のことだが、彼らはプロだ。
そして僕はレコード会社でのプロデュースという経験はない。
そして僕はレコード会社でのプロデュースという経験はない。
つまり素人だ。
だから、最初は自分を疑った。
僕は何を勘違いし、何を見失ってしまっているんだろう、と。
でも、僕の中で一番重要だったのは、そのプロである制作の人達が一向に興味を抱かない『バンドメンバーの人間的な魅力』であり、そこからイメージできる『アーティストとしての限りない可能性』だった。
そして、そこを起点に考えると、僕の思い描くXの未来は、制作スタッフの人達のちょうど逆になってしまうのだ。
そう、今は決して完成形ではないので、ちゃんとプロデュースの方針を共有して、新たな進化の道を歩んでいくこと。
その結果、今のメジャーシーンにはない、新しくて圧倒的な存在のアーティストとなること。
少なくとも、僕の考えるこういったビジョンを同じように想い描く制作スタッフは全くいなかった。
SD事業部の担当者としては、それは頭を抱えることだった。
しかし・・・
全く別の見方をすれば、そんな事実は、あるとんでもない可能性を示していたのだった。
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
入会して購読
この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。