マル激!メールマガジン 2019年1月23日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第928回(2019年1月19日)
フェイクニュースにはファクトチェックで太刀打ちする
ゲスト:楊井人文氏(ファクトチェック・イニシアティブ事務局長・弁護士)
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厚生労働省の毎月勤労統計調査に法律で定められた方法とは異なる「手抜き」があり、日本人の賃金が実際よりも低い数値が公表されていたことがわかった。一次データが不正確だったということになると、それを元に算出したGDPなどの二次統計も間違っていたことになる。日本の国際的な信頼の低下が避けられない深刻な事態だ。それにしてもフェイクニュースの蔓延が問題となる中で、政府の一次情報までがフェイクだったとは。
昨今よく耳にするようになった「フェイクニュース」という言葉は、元々は広告収入を得る目的で作られた、一見ニュースサイトに見えるようなサイトやそこに掲載された偽情報のことを意味していたが、今日ではネット上に溢れる虚偽情報全般を意味する言葉になっている。その中には従来の広告目的の意図的な偽情報もあるが、政治的な意図のあるものや単なる勘違い、デマや陰謀論の類いまでが幅広く含まれる。
フェイクニュースが蔓延する原因は、インターネットの普及でかつて一握りのマスメディアが独占していた伝送路が開放され、誰もが発信できるようになったことが大きいことは言うまでもない。しかし、ここに来て偽情報がSNSによって拡散されることで、情報の内容次第ではかつてのマスメディア以上に大きな影響を社会に与えるようになっている。
しかし、言論の自由が保障された民主主義の国で、フェイクニュースの拡散を止めることは容易ではない。罰則を強化したとしても、大抵の場合、フェイクニュースの最初の発信者はネットの匿名のフェイクアカウントから情報を発信されている。拡散が始まったのを確認した上でアカウントを削除して逃げてしまうことが可能だ。
そうした中で、フェイクニュースに真正面から対峙する試みが、広がりを見せ始めている。それが「ファクトチェック」と呼ばれるものだ。ファクトチェックは、公開された情報のうち、客観的に検証が可能な情報の事実関係を第三者が確認し、その結果を発表するというもの。あくまで事実関係のみがファクトチェックの対象となり、また、チェックをする者も、自らの政治信条や党派性を持ち込まないのが原則だ。
数年前から、NPOやネットメディアなどが独自にファクトチェックを始めていたが、2017年に「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」というNPO法人が設立され、賛同するネットメディアや個人の協力の下、国際的に確立されたガイドラインに基づくファクトチェックが行われるようになった。
ファクトチェック・イニシアティブの事務局長を務める楊井人文弁護士は、フェイクニュースの氾濫を野放しにしておけば、言論の自由に制限を加える口実を政府に与えてしまう恐れがあるとして、ファクトチェックの重要性を強調する。フェイクニュースの負の影響が制御不能なほど大きくなれば、言論の自由に対する多少の制限はやむを得ないと考える人が増えてくることは十分にあり得るだろう。
そのような事態を避けるためにも、ようやく日本でもファクトチェックの組織的な動きが出てきたことになる。ただ、一定のガイドラインに基づいて市民が情報の真偽を確認しその結果を公表するファクトチェック・イニシアティブのような動きは、かなり前から世界規模で始まっており、日本はむしろ後発だと楊井氏は指摘する。
インターネットとSNSの普及によって、新たな社会問題として浮上したフェイクニュースについては、技術の進歩に解決を期待する向きも多い。また、市民ひとりひとりのネットリテラシーが向上してくることで、真偽や出所が不明の情報を無責任に拡散させない習慣が根付いてくることも必要だろう。しかし、無数に流れてくる情報の真偽を一市民が瞬時に判断するのは容易なことではない。ファクトチェックが広がってくれば、一般の市民が今よりも容易に情報の真偽を確認することが可能になるはずだ。
今週はファクトチェック運動の旗振り役として活動してきた楊井氏と、なぜ今ファクトチェックが必要なのか、ファクトチェックを通じて見えてきたフェイクニュースの特徴や背景とは何かなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・ファクトチェック・イニシアティブ ジャパン設立の理由
・ファクトチェックの意味と、沖縄知事選での誤報の事例
・人は間違えるものだからこそ、事後に正す必要がある
・拡散するフェイクニュースに太刀打ちできるのか?
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■ファクトチェック・イニシアティブ ジャパン設立の理由
神保: 今回は「ファクトチェック」という、一部の方にとっては聞き慣れないテーマを取り上げようと思います。要するに、フェイクニュースがあるから、ファクトチェックが必要になるということです。別途取り上げたいと考えていますが、政府の統計調査自体がフェイクニュースだった、という問題も明らかになり、これでは「ファクト」の元になるデータ自体が信用できなくなってしまい、お手上げ感があります。
宮台: 正しさにこだわる、というのは損得を超える感情です。しかし、やはりそういう感情、あるいはオリエンテーションを持つ人が、しかるべき場所からどんどんいなくなっているということがあると思います。