![マル激!メールマガジン](https://secure-dcdn.cdn.nimg.jp/blomaga/material/channel/blog_thumbnail/ch1092.jpg?1382154832)
前嶋和弘氏:トランプ2.0はどこまで突っ走れるのか
マル激!メールマガジン 2025年1月29日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マル激トーク・オン・ディマンド (第1242回)
トランプ2.0はどこまで突っ走れるのか
ゲスト:前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
トランプ2.0が始まった。
1月20日、極寒のワシントンで大統領就任式が行われ、ドナルド・トランプ元大統領が第47代大統領に返り咲いた。トランプ新大統領は宣誓式の直後からバイデン政権の政策をことごとくひっくり返す大統領令への署名に着手し、地球温暖化を阻止するためのパリ協定からの離脱やWHO(世界保健機構)からの離脱を命じた他、2021年1月6日の議会襲撃事件の被告や受刑者1,500人あまりを一斉に恩赦した。トランプが署名した大統領令は初日だけで26にのぼった。
この4年間トランプにとっては頭痛の種だった自身の刑事事件も事実上不問に付され、今や世界の最高権力者の座に再び上りつめたトランプは、もはややりたい放題。怖いものなしで我が世の春を謳歌しているかのように見える。
しかし、上智大学総合グローバル学部教授の前嶋氏は、トランプにとっては大統領に就任したその日が権力のピークであり、ここから先は着実にレームダック化の道を進むことにならざるをえないだろうと語る。
まずそもそもトランプは決してアメリカ国民の圧倒的な支持など得ていない。アメリカは今完全に分断されていて、その約半分を占める共和党支持者からは熱い支持を受けているが、残る半分の民主党支持者からはほとんどまったく支持されていない。実際、大統領選挙も一般投票では僅か1.5%と僅差の勝利だったし、議会選挙も共和党が制したものの、その差は上下両院ともに僅差だ。
実際、トランプが初日に署名した大統領令のほとんどは予算措置を必要としないものばかりだった。予算が必要になる施策は議会の承認が必要になる。議会の上院は共和党が60議席を押さえられていないため、民主党のフィリバスター(議事妨害)にあえば、予算案は通らない。また、アメリカの議会は議院内閣制の日本と異なり基本的に党議拘束がないため、与党共和党の全議員がトランプのすべての政策を支持しているわけではない。
結局のところ、初日の大統領令のラッシュは、予算措置を伴わず簡単に出せるものの中から、悪目立ちするアナウンス効果が大きなものを選んで署名した、パフォーマンスに過ぎなかったことが透けて見えると前嶋氏は言う。トランプ政権の基盤は決して盤石とは言えないというのが前嶋氏の見立てだ。
また、トランプが初日に署名した大統領令の中には、今後法廷で覆されるものも多く出てくるものと見られている。例えば、トランプは初日にアメリカで生まれた人に自動的に市民権を与える「出生地主義」の廃止を命じる大統領令に署名しているが、これに対してワシントン州シアトルの連邦地裁が早くも23日には、これが憲法違反であるとして一時的な差し止めを命じている。
アメリカの出生地主義は憲法修正14条に明記されているため、憲法を変えない限り大統領令だけでこれを変更することができないことは、小学生でもわかることだ。他にも初日にトランプが署名した大統領令の中には、法的な挑戦を受けるものが数多く出ることが予想されている。
しかし、トランプが大統領として2021年1月6日の議会襲撃事件に関与した約1,500人を恩赦したことの影響は計り知れない。大統領には恩赦権限がある。これもまた憲法に明記されている。なので、この決定に対しては誰も何も言えない。しかし、この中には議会襲撃の際に暴力的な行動によって禁錮22年の実刑判決を受けた極右団体「プラウド・ボーイズ」の元指導者エンリケ・タリオ氏なども含まれている。
J-6(1月6日の議会襲撃事件)については、直前に襲撃を煽動するかのような演説を行ったトランプ大統領(当時)の刑事責任については議論の余地もあろうが、実際に何千人もの暴徒が議会を襲撃し警備員ら5人の命が失われたほか、議会の施設が破壊され全連邦議員が緊急避難をしなければならない事態に発展したことは紛れもない事実だ。その罪まで大統領のペン1つで不問に付されて本当にいいのか。それがアメリカの司法に対する信頼や社会正義にどのような影響を与えるかは、今後注視していく必要があるだろう。
実は、バイデン前大統領は退任間際の1月20日、トランプに起訴される恐れのある人々に「予防的恩赦」を与えると発表している。まだ起訴されていなくても、トランプに起訴されたときのために事前に恩赦しておくというのだ。大統領のためであればどんな違法行為も大統領恩赦によって許され、もしも政権が変わることになれば、次の政権から訴追されないために予防的恩赦で予め免罪符を手にすることができる。
このような施策が横行してしまえば、大統領にさえ守られていればどんな違法なことをしても訴追されないという、とても恐ろしい時代になってしまう。アメリカの刑事司法、いや民主主義はどこまで崩れていくのだろうか。
トランプ大統領就任から1週間、アメリカで何が起きたのか。トランプはどこまで本気なのか、トランプ第2次政権はどこまで突っ走るのか、そしてその結果、アメリカはどう変わっていくのかなどについて、上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
今週の論点
・前代未聞の党派的な大統領就任演説
・次々と署名した大統領令のねらいとは
・レームダック化が避けられない第2次トランプ政権
・「ハイテク産業複合体」がもたらすのはディストピア時代か
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■ 前代未聞の党派的な大統領就任演説
神保: アメリカ時間の月曜日、日本時間では火曜日にトランプ政権が発足し、この1週間は4年分のことをすべてやってしまったくらい目まぐるしい1週間でした。今日のゲストは上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘さん、トランプ現象についてお聞きするならこの方だということでかなり前から出演をお願いしていました。
トランプ2.0発足の1週間を見ていきたいと思います。今週の1月20日に4年のブランクを経て再選されたトランプ政権が発足しましたが、まず就任演説を見ていきます。「黄金時代が始まった」、そして「世界から尊敬される国になる」ということをしきりに言い、アメリカ第一主義を掲げました。そして民主党がこういったアメリカの良いところを奪おうとし、挙句の果てには自分の命まで奪おうとしたけれど、自分は神に救われて神の命ずるままにここにいるという発言もありました。
またコモン・センスの回復ということも語り、これは日本語では常識などと訳されるのかもしれませんが、トマス・ペインの『コモン・センス』という本はアメリカの高校生であれば必ず読むもので、これが大文字になると特別な意味を持ちます。
宮台: 共通感覚ということです。
神保: 違法移民の送還、「メキシコ湾」の名称を「アメリカ湾」に変えること、ジェンダーは男性と女性のみでLGBTQなどは認めないこと、また米連邦職員を徹底的に自分の言う通りに動かし、そうしない人については内部告発させる仕組みを作り、場合によってはクビや訴追にするということまで言及しました。
良い意味でも悪い意味でも歴史に残る異例の就任演説だったと言われていますが、まずはスピーチ自体をどのように見ますか。
前嶋: 2つ思ったことがあります。まず言葉が簡単で、自分の支持層に訴える演説のようですよね。民主党側を腐す発言をすると共和党側がスタンディングオベーションするような、選挙演説や一般教書演説のような演説でした。
2つ目は、神という言葉を使っていることです。自分は神様に選ばれてこういう政策をしていると話していて、2025年1月20日は解放の日だと言っています。横にバイデンがいるにもかかわらず、神から命じられて人々を民主党から解放すると言っていて、非常に党派的な演説でした。
一方、歴史的に見ると、アメリカファーストを謳った2017年1月20日の演説と同じように結構スクリプトを読んでいたので、平たい言葉を使っていてトランプ的だとは思いますが、普段の演説とは違うんだなと思いました。しかし一番大きなポイントは、一般投票だとトランプに投票したのは49.9%、ハリスは48.4%で、1.5ポイントしか差がないということです。
この記事の続きを読む
ポイントで購入して読む
※ご購入後のキャンセルはできません。 支払い時期と提供時期はこちら
- ログインしてください
購入に関するご注意
- ニコニコの動作環境を満たした端末でご視聴ください。
- ニコニコチャンネル利用規約に同意の上ご購入ください。