マル激!メールマガジン 2019年1月30日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第929回(2019年1月26日)
日本が統計を軽んじてきたことの大きな代償
ゲスト:鈴木卓実氏(たくみ総合研究所代表)
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厚生労働省の毎月勤労統計の手抜き問題が泥沼の様相を呈する中で、他のあらゆる統計の大元として政府が発表している56の「基幹統計」と呼ばれる調査のうち、22の調査に何らかの問題があったことが明らかになり、突如として日本の統計のデタラメぶりが国内外に衝撃を与えている。基幹統計は日本が国際機関に報告しているGDPなどの諸統計にも影響を与えるため、まだまだ波紋は広がりそうだ。
われわれは中国を始めとする専制国家や発展途上国の経済統計には政府の意図が反映されている可能性があるので信用ができないという話をこれまでたびたび耳にしてきた。しかし、今回の件を見る限り、日本の統計もそう大差がなかったようだ。統計に詳しいエコノミストの鈴木卓実氏は、日本の統計軽視の風潮は今に始まったことではないが、今回の事件は「ここまでひどかったのか」との思いを禁じ得ないほど、ひどいものだったという。
日本政府の統計職員の数は国民一人あたりに換算するとカナダの10分の1、フランスの6分の1しかいない。鈴木氏によると、かつて日本では一般の市民が真面目に政府の統計調査に応じてくれていたので、それほどのマンパワーが必要なかったと言う。しかし、今日、その状況は変わっている。にもかかわらず、統計職員の数は少ないままで、「人手が足りないことは明らか」と鈴木氏は指摘する。
人数の多寡と並んで、中身の問題も指摘されている。2004年の小泉政権下で閣議決定された、いわゆる「骨太方針」を呼ばれるものの中には、行政改革の一環として、「農林水産統計などに偏った要員配置等を含めて、既存の統計を抜本的に見直す。一方、真に必要な分野を重点的に整備し、統計精度を充実させる」と書かれている。
後段の「充実させる」の部分は、今回の毎月勤労統計の実態を見る限りは、全く空理空論だったことになるが、むしろ問題は前段にある統計職員の配置を官邸主導で特定分野にシフトさせることが謳われている点だ。2009年から2018年の間の統計職員の省庁別の増減を見ると、この骨太で謳われている通り、農水関連の統計職員数が一気に4分の1以下に減らされたほか、厚労相、経産省、国交省、文科相などでも統計職員数が軒並み減らされているのに対し、内閣府と警察庁、総務省の統計職員数だけは増加に転じている。
これは現時点ではあくまで仮説の域を出ないが、一連の官邸への権限集中の流れの中で、各省庁からあがってきたデータを使って政治主導の政策立案をする機能や権限が官邸や内閣府に移される一方で、各省庁が長年続けてきた統計調査だけは、より少ない人数で継続しなければならない状態に追い込まれていた可能性がある。
原因が杜撰さであろうが、何らかの政治的な意図が含まれていたのであろうが、政府が発表する基礎データが信用できないということになれば、これまでの政府の政策判断が間違っていたものだった可能性すら出てくる。なぜ日本は統計を重視できないのか。統計を軽視する国が滅びるのはなぜか。日本が政府統計への信頼を取り戻す方法はあるのか。日銀で統計を担ってきた鈴木氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・統計が軽んじられている日本
・深刻化する、統計職員の人員不足問題
・GDPが示すものと、示さないもの
・暴かれた「アベノミクス効果」の欺瞞
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■統計が軽んじられている日本
神保: 今回は統計を入り口に議論をしたいと思います。政府の毎月勤労統計なるものの不正問題というのか、改ざん問題というのか、これから国会で政治問題化していくでしょう。森友問題しかり、さまざまなものが消えたり改ざんされたり、あらゆるところで同種の問題が起きています。官邸が強いから忖度もひとつの要因ではありますが、それだけでは説明がつかないような感じもします。大きく言えば劣化問題だと思うけれど、僕らも普段から統計について考えてこなかったところもあります。
宮台: これはやはり民主主義の問題と関連します。昔から思うのは、すべての分野における政策は事前のリサーチを十分に行い、かつ遂行したあとには実際に効果があったかということを調べる必要がありますが、日本はそれが両方とも薄いです。つまり、リサーチに基づいて政策の合理性が評価されるのではなく、大人の事情、権益のネットワークや損得に基づく忖度というところで政策が決まっているという可能性を考えてきました。今回の事実上のデータ偽造問題で、その疑念は本当だったのだとはっきりした感じがします。
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