閉じる
閉じる
×
マル激!メールマガジン 2022年4月6日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
──────────────────────────────────────
マル激トーク・オン・ディマンド (第1095回)
ロシアのウクライナ侵攻と世界の反応に対するイスラム的視点
ゲスト:中田考氏(イブン・ハルドゥーン大学(トルコ)客員教授・イスラム学者)
──────────────────────────────────────
ロシアによるウクライナへの武力侵攻は多くの国々を驚愕させた。それがロシアのプーチン大統領による現在の国際秩序に対するあからさまな挑戦であることが、誰の目にも明らかだったからだ。今回の侵攻が到底許されざる行為であることは言うまでもない。
しかし、それが現在の国際秩序を揺るがす行為であるから許されないかどうかという点については、実は異なる視点を持つ国々が少なからず存在する。現在の「国際秩序」は西側の一握りの先進国によって都合よく作られたもので、それ自体は絶対的なものでもなければ、必ずしも正当性があるものとはいえないとする考え方を持つ国々が多く存在するのだ。
その片鱗が見えたのが、2月24日に始まったロシアの軍事侵攻を受けて行われた国連総会におけるロシア非難決議の採決だった。ロシアの軍事侵攻を非難し、武力行使の即時停止を求めるこの決議の採決では、現在国連に加盟する193か国のうち、141か国が賛成する一方で、52の国が決議に反対、もしくは棄権、無投票などの形で賛成しなかった。他国へのあからさまな軍事侵攻を非難する決議に、全世界の4分の1が賛成を見送ったという事実は重い。世界が一丸となってアメリカ主導のロシア包囲網を形成しているかのような印象を受けがちだが、もしかするとそれは少々楽観的、かつ一方的な見方なのかもしれない。
それにしても、他国に軍事力を持って侵攻し、多くの市民を巻き添えにする行為を真っ向から批判したり糾弾しないというのは、どういう考え方に基づくものなのだろうか。イスラム法学者で自身もイスラム教徒としてイスラムの視点から世界情勢や社会問題などについてさまざまな発信を行っている、トルコのイブン・ハルドゥーン大学客員教授の中田考氏は、軍事侵攻そのものは否定しながらも、ロシアが1994年にチェチェンに軍事侵攻しそのあと15年にわたり武力行使を続けた結果20万人もの犠牲者(しかもその大半は一般の市民だった)を出したとき、世界も日本もほとんどロシアを糾弾しなかったことを指摘した上で、現在のウクライナ情勢に対する西側世界のダブルスタンダードへの違和感を隠さない。
そのうえで中田氏は現在、われわれが「国際秩序」と呼んでいるものは、17世紀以降、西欧を中心に白人にとって都合のいい理屈をいいとこ取りして作られたものに過ぎず、そのベースとなるウェストファリア体制下の主権国家という考え方も、それを支える「自由」や「民主」、「平等」などの概念も、あくまで白人が非白人を支配するために都合よく考え出された概念に過ぎないと、これを一蹴する。
イスラムの立場から、西欧が普遍的としている自由や平等などの考え方が本当に普遍的なものなのか、またそれを体現している現在の国際法に真の正当性があると言えるのかを、今一度再考する必要があるのではないかと問う中田氏は、イスラムが現代に提供できる知恵は「客観的な善悪の基準など存在しないことを認め、理解も共感もできない他者との間で敵対的な共存の作法を見つけること」であり、イスラムは「真の裁きは最後の審判まで棚上げし、他者との共存の作法を練り上げてきた」と語る。
一刻も早く軍事侵攻を終わらせるためには、まずは停戦合意、そして和平合意を成立させなければならない。その際、正当性の有無にかかわらず、ロシア側の考え方の背後にある様々な世界観を知っておくことが不可欠となる。
今回はイスラム法学者の中田氏に、イスラムの視点からロシアのウクライナ侵攻と現在の世界秩序に対する認識を聞いた上で、西側の社会では無条件で普遍的と考えられているさまざまな価値観が、世界では必ずしも絶対的なものではないこと、そしてそのギャップをいかに埋めていくことが可能か、そもそも欧米の白人国家ではない日本が、ほぼ無批判に西側の論理を絶対的なものと受け止めていることをどう考えればいいのかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
今週の論点
・世界が一丸となってロシアを非難している状況ではない
・押しつけ全体主義の西欧と、対照的なイスラムの世界
・イスラムに学ぶ「敵対的共存」とは
・まずは敵と味方に分ける馬鹿げた発想をやめるべき
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■世界が一丸となってロシアを非難している状況ではない
神保: 今回は大事なテーマで長くお話を伺いたい方にきていただいていますので、さっそく本題にいきたいと思います。ゲストは、トルコのイブン・ハルドゥーン大学客員教授で、イスラム学者の中田考さんです。中田さんは23歳のとき、東大在学中にイスラム教に入信されたんですよね。
中田: そうですね。イスラムの専門で勉強をして1年経ってからですので、ほぼイスラム研究の歴史とイスラム教徒としての歴史が重なります。もう40年間、ずっとやってきました。
神保: 語り始めたら一回の番組では終わらないと思いますが、ズバリいうと何がきっかけで入信されたのですか?
中田: もともと子どものころからキリスト教の教会に通っていました。イスラムの場合、戒律が表に出ますが、基本的には神の信仰ですから、思い返せばずっと信じていたという感じで。いまにして思うと、ずっとそういう考えで生きてきました。
神保: このお話も別途じっくりお伺いしたいのですが、今回はイスラム的な視点から、ロシアのウクライナ侵攻やそれに対する“国際社会”の反応がどう見えるのか、ということを伺っていきたいと思います。
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
入会して購読
この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。