マル激!メールマガジン 2014年7月23日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第692回(2014年07月19日)
ブラジルサッカー惨敗に見る「世界の危機」
ゲスト:今福龍太氏(東京外国語大学大学院教授)
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 7月13日に閉幕したサッカーのワールドカップ・ブラジル大会は高い身体能力を備えた選手を揃えたドイツが、高度に統制された戦術のもとで全員が精力的に走り回る合理主義サッカーで世界の頂点に立った。しかし、今大会で最も多くの耳目を引いたのは、何と言ってもホスト国で「サッカー王国」の名をほしいままにしてきたブラジルが、準決勝でドイツに7-1という歴史的なスコアで敗れた「ミネイロンの悲劇」だった。
 文化人類学者として長年ブラジルやラテンアメリカを研究してきた東京外国語大学大学院の今福龍太教授は、今大会、ブラジルが大敗しドイツが優勝したことについて、これは単にブラジルサッカーの危機を超えた「サッカーの危機」、ひいては「世界の危機」を反映するできごとだと評する。
 ドイツは徹底したデータの集積、そしてそれに基づいた科学的な分析に基づく統率の取れた戦術によって、他チームを圧倒した。それはサッカーというゲームの意味を度外視し、単純により多く得点するための最適解を求めた結果だった。今福氏はドイツや今大会で優勝候補のスペインに大勝するなどして健闘が目立ったオランダのような、手段を選ばずに貧欲に得点を狙いにいくようなプレーはブラジルサッカーではあり得ないことだという。ブラジルのサッカーでは単純に多くの点を取ることよりも、想像力溢れるプレーや美しいゴールの方により重きが置かれていると言っても過言ではないほどだと今福氏は言う。
 ドイツの勝利至上主義の背景に、勝利することによって得られる莫大な経済的利益があることは言うまでもない。勝つことで得られるマネーが年々膨張してきたことがより一層サッカーの情報化、データ化を促し、選手の個性は消し去られ、チームは選手を単なる駒のひとつとして戦術にはめ込んでひたすら得点を目指すというスパイラルに陥っていく。
 今回のワールドカップで顕在化した「合理性」対「偶然性」の価値対立は、実際はサッカーの枠を遙かに超え、今日われわれの社会生活の至るところで衝突している価値対立と共通していると今福氏は言う。その価値の衝突に自覚的にならない限り、われわれは今大会でドイツが見せた「合理主義」を無批判によいものとして受け入れ、その対価としてブラジルのサッカーに見られるような「別の大切なもの」を無自覚に捨て去っている場合が多いのではないか。そしてブラジルサッカーと同様に、その「別の大切なもの」こそが、むしろ何に代えても守っていかなければならないものの場合が多いのではないか。
 ワールドカップ・ブラジル大会に投影された今日のわれわれの生きにくい世界の縮図を、ゲストの今福龍太氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・ブラジル=偶然性と、ドイツ=合理性の戦い
・グローバル化とジェントリフィケーションが奪う、サッカーの本質
・「思い通りのことが起こる」ことが快楽なのか
・もっとも知的な人間は、知的な計算をやめる
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