チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は、現在チームラボの作品を展示している、佐賀県の御船山楽園へと宇野常寛が実際に訪問し、猪子さんと語り合った対談の後編です。50万平米の庭園と森に迷い込むような展覧会の全貌とは? そして、町の歴史や自然にデジタルアートが介在できる可能性とは?(構成:稲葉ほたて)
PLANETS Mail Magazine
猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉第22回「デジタルアートの力で“近代以前の歴史”を可視化したい!」(後編)
猪子 そして、「資生堂 presents チームラボ かみさまがすまう森のアート展」の話もしたいな。7月14日(金)から10月9日(月)までやっている展示で、佐賀県武雄の御船山楽園の古池の水面に鯉が泳ぐ『小舟と共に踊る鯉によって描かれる水面のドローイング』を一昨年と昨年と行ったんだけど、今年は、50万平米にも及ぶ御船山楽園の庭園と森を使って、14作品にも及ぶ大展覧会をするんだよ。
▲『岩割もみじと円相』
宇野 御船山楽園での展示は今年で3年目だけど、今回はどういうコンセプトなの?
猪子 今回は、実は「石」が裏テーマなんだよね。元々は、一昨年あたりからずっと巨石や岩に興味があって探していたんだけど、田舎に奇跡的に残っている自然の石を売る石屋になんかに行ったり山に入ったり。そうこうしているうちに、「やっぱり石を買うなんておこがましいよな」と思いはじめて(笑)。むしろいい巨石がある場所に人間の方が出向くべきだなと。
そういう興味の流れがあって、この展示では、御船山楽園内の森の中にある正一位稲荷大明神にそばにある巨岩(高さ3m、幅4.5m)に滝をプロジェクションで降り注ぐ『かみさまの御前なる岩に憑依する滝』や、苔生す巨岩(高さ4.5m、幅3.8m、奥行き7m)を使った『増殖する生命の巨石』などの、多くの「巨石」を使った作品がたくさんあるんだよね。
▲『増殖する生命の巨石』
猪子 この正一位稲荷大明神というのは、最高位の神社なんだけど、祀られている場所は素晴らしい巨石に囲まれているの。だからおそらく、巨石が自然に積み上げられたような神秘的な場所を見て、その巨石を祀り始めて後から祠ができたんじゃないかと思うんだよね。
そう考えると、こうした神社とか祠って、自然と人間が共作した遺産だなと思うんだよ。何億年もの自然の時の流れで岩の形は作られて、そこに何千年もの時間をかけて人々が意味を見出していく。ときには直接岩肌に仏を彫ってみたり、ときには神社を祀ってみたりする。
宇野 もう、その岩が今ここに至るまでの経緯なんてわからないわけだよね(笑)。そして人間の側の意図も、今の人間社会の文脈とかでは到底理解ができない。おそらく文献だってそんなに残っていなくて、想像するしかないわけだよね。そう考えると、あまりにスケールの大きい人間の歴史って、「ほとんど自然」と言えるかもしれないね。
宇野 一般的な日本庭園と比べて、この御船山楽園は独特の魅力がある気がするね。
猪子 御船山楽園は、今から172年前、1845年(江戸後期)に50万平米にも及ぶ敷地に鍋島茂義よって創られたんだ。敷地の境界線上には、日本の巨木7位、樹齢3000年以上の武雄神社の神木である大楠があったり、庭園の中心には樹齢300年の大楠がある。つまり、そのことから想像するに、御船山を中心とした素晴らしい森の一部を、森の木々を生かしながら造った庭園なんだと思うんだ。だから、庭園と自然の森との境界線はとても曖昧で、回遊していく中で森を通ったり、けもの道に出くわしたりする。森には、稲荷大明神以外にも、洞窟には、名僧行基が約1300年前に岩壁に直接彫ったと伝えられる仏や五百羅漢があるんだ。
つまり、何百万年もの時間の中で形作られた森や巨石や洞窟、そしてそこに千年以上もの時間をかけて人々が意味を見出してきた上に、鍋島茂義がまた意味を見出し、庭園を創ったんだと思う。そして、今なお続く自然と人との営みが、森と庭園の境界が曖昧な、この居心地の良い御船山楽園を生んでいるのだと思うんだ。
▲御船山楽園(撮影:宇野常寛)
猪子 ずっと本当の森で展覧会をやりたいと思っていたけれど、千年以上も人々が意味を見出してきた自然、つまり人の営みの歴史がある自然で、やりたいと思ったんだ。御船山楽園で探索していた時に、庭園と森との境界の曖昧な場で道を失ってさまよった時に、長い自然と人との営みの、境界のない連続性の上に自分の存在があることを少し感じたの。だからこの広大な庭園と森の中で迷い込んでしまい、自分がまるで何かの一部であるかのような感覚になっていくような展覧会をやりたいと思ったんだ。
宇野 (この収録の直前に)実際に御船山楽園を猪子さんと一緒に歩いたけどさ、普通に昼間歩いているだけも抜群に美しい庭園全だよね。だから、僕は思うんだけど、猪子さんはこの昼の御船山楽園に夜の御船山楽園で勝たなきゃいけないよね。
猪子 いやいや、そんなおこがましいこと……。
宇野 いや、猪子さんはそれをやらなきゃダメなの(笑)。そもそもこの作品って、コンピュータの力を借りて初めて、目で見て耳で聞くことができる自然の要素があるんだというコンセプトだよね。前も少し話したかもしれないけれど、人間の五感は実は自然の全てを把握できていない。それに対して、猪子さんは例えば四国の山奥でやった『増殖する生命の滝』は、人間は把握できない長い生命の連続性を、デジタルアートを当てることで把握できるようにしたわけだよね。昼ではなく夜の世界、その暗闇の中に現代のテクノロジーをぶつけることで、初めて浮かび上がって認識できる自然の側面があるんだということでしょ。
猪子 まあ、そうなんだけど(笑)。日常に生きていると、自分の生命が40億年もの間、数え切れない数の生と死の連続性の上に存在していることって、絶対に認識できないと思うんだよね。四国での作品は、滝によって圧倒的に長い時間によってできた岩の造形を使って、何か長い生と死の連続性の上に生命が存在していることを少しでも感じるような塊を創りたかったんだ。今回の御船山楽園も、岩や洞窟、もしくは森そのものの造形を使って、作品を創っているんだ。普段は誰も岩なんて見向きもしなくて、存在は忘れ去られていたんだけど。基本、桜やツツジが咲いた時と紅葉だけに注目が当たるから。
宇野 市民にとってはそういう存在なんだよね。さっきも言ったとおり、大村公園も全く同じで、桜が咲いたときにしか市民たちは興味をもっていなかったかもしれないけど、今回の展示によってその場所の魅力を再発見してもらえると嬉しいね。
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