デザイナーの池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生ーー世紀末ボーイズトイ列伝』。ラジー賞を受賞し「最低の映画」とまで言われる映画版『トランスフォーマー』シリーズ。しかしある視点から見ると、アカデミー賞も受賞したクリント・イーストウッドが監督・主演した名作『グラン・トリノ』と驚くほどの類似点があると言います。ふたつの映画の比較から、21世紀にトランスフォーマーの陥ってしまった困難について語ります。
ここまで、20世紀を代表する成熟した男性の理想像は、アメリカのアクションフィギュア「G.I.ジョー」が描き出したような、最強の肉体と最強の知性を併せ持つ「軍人」であったことを確認してきた。そしてそのイメージを更新した20世紀末のボーイズトイにおいて、「G.I.ジョー」の仕様変更品として生まれた「変身サイボーグ」は、自身の身体にテクノロジーを組み込むことで成熟を目指す「サイボーグ」というイメージを、そしてさらにその関連商品として発売された「サイボーグライダー」は、自らが乗り物になってしまうことで「魂を持つ乗り物」というべきイメージを提出した。
そして前回にあたる「第一章(1)「トランスフォーマー──ヒトではなくモノが導く成熟のイメージ」では、1984年の誕生当時のトランスフォーマーを、「魂を持つ乗り物」の最も先鋭化した姿として、理想の成熟のイメージとして憧れの器となりながら同時に成熟することを断念させる矛盾を孕んだ存在として、そしてそれゆえに描くことのできた新しい成熟のイメージについて論じた。
その後トランスフォーマーは、誕生から30年以上に渡ってさまざまなバリエーションを生み出し続けており、そのそれぞれがユニークな想像力を提案し続けてきた。ひとつひとつのシリーズを理想の男性性や成熟のイメージといった観点から詳細に分析していきたいところだが、それは重厚な歴史に伴ってあまりにも膨大な分量になってしまうことから残念ながら断念せざるを得ない。そのためその重要性を認識しつつも、本稿では2007年からスタートし現在も進行中の、トランスフォーマー史上ある意味で最もポピュラリティを獲得したシリーズであるハリウッド映画版、およびそのおもちゃについて取り扱いたい。
前回でもわずかに触れたが、結論から述べると、このハリウッド映画版はアメリカ主導で製作されることでアメリカン・マスキュリニティが中心的なテーマに据えられ、そして結果としてその挫折と更新の難しさを露呈してしまっている、というのが本連載の立場である。まずは映画の物語に注目しながら分析を加え、おもちゃのデザインがどのようにそれを引き受けたかという順で論じていきたい。その後ここまでの議論と合わせて考えることで、21世紀にトランスフォーマーが辿り着いてしまった限界と、20世紀末に置いてきてしまった可能性が明らかになるだろう。
▲タカラトミー『TLK-15 キャリバーオプティマスプライム』
『トランスフォーマー』は「最低」の映画か?
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