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チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は、シンガポール、徳島、そしてオーストラリアで開催する最近の展示を中心に紹介していただきました。マリーナベイ・サンズで展示されている新作が体現する、新しい「シェア」のあり方とは? そして「歩く」ことがコンセプトの新作が切り拓いたチームラボ作品の新天地とは?(構成:稲葉ほたて)

国際的なデザイン・アートメディアで2017年トップ1をとった!

猪子 今日は早速、宇野さんに報告があるんだ。designboomというデザイン・建築・アートの世界最大のデジタルメディアが発表した2017年のアートインスタレーションのトップ10に御船山楽園での「かみさまがすまう森のアート展」が選ばれただけではなく、世界1位に選ばれたんだよ!

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TOP 10 art installations of 2017(designboom, dec 05, 2017) 

宇野 それは素晴らしいね。僕も足を運んだけれど、あれはここ数年のチームラボの集大成的な展示だったと思う。もっと行きやすいところにあればもっともっと話題になったのだろうけど、あの御船山というロケーションあっての展示だったからね……。しかし、こうしてきちんと評価されて嬉しいね。

猪子 本当に名誉なことだよね。2016年の1位がクリストの、島の周りを歩ける布で覆うアートなんだよ。これが、もうめちゃくちゃデカくてすごすぎるから、申し訳ない気持ちになるよ。

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TOP 10 art installations of 2016(designboom, dec 15, 2016) 

宇野 でもさ、この作品の翌年に猪子さんが1位をとるのは不自然じゃないよね。このクリストの作品って本来歩けないところを歩けるようにすることによって−−つまり世界そのものに介入することによって、人間の空間感覚、地理感覚にも介入するというコンセプトのアートだと思うんだけど、それってまさにチームラボが情報技術を使ってやっていることでもあるからね。

前も言ったかもしれないけれど、チームラボって、この作品みたいにいずれ島や街を丸ごと使った大規模なアートに行き着くと思うんだよ。チームラボはいつか、人が住んでいる生活空間とかを、まるごと包み込むような作品を作るべきだと思う。

「Digital Light Canvas」が表現する、新しい「シェア」

猪子 それで言うと、シンガポールのマリーナベイ・サンズのショッピングモールに「Digital Light Canvas」という超巨大な作品が、去年の12月22日から常設されたんだよ。

この「Digital Light Canvas」は、直径15メートルのLEDでできた円形リンクと、その上空にLEDを立体的に配置して立体的に像を出現させる高さ20メートルのシリンダー(直径7m、高さ14m)で構成されているんだ。

リンクは、もともとはスケートリンクだった場所なんだよね。しかも、地下2階のフロアにあって、そこから地上3階まで吹き抜けになっているから、たくさんの人が大空間で作品を見下ろせるようになっているんだよ。

宇野 あわせると5階分の高さがあるんだね。迫力がありそう。

猪子 そう。「Digital Light Canvas」では、基本的に『Nature’s Rhythm』という作品になっているんだけど、30分に一度『Strokes of Life』という作品がはじまるんだ。

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▲『Nature’s Rhythm



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▲『Strokes of Life

リンクの上は人が自由に歩けるようになっているんだけど、『Nature’s Rhythm』のときは、リンク上には数十万匹の魚の群れが泳いでいて、人が動くと魚が逃げていく。特徴的なのが、上を歩く人がそれぞれ「自分の色」を持つこと。魚が近くを通るとその人の色に変わっていく。たくさんの人がリンクの上にいると、魚はいろんな色になって、群れはどんどん色が混ざっていくだよ。

一方、上空に展示されているシリンダーには鳥の群れが立体的に飛んでいる。鳥は光でできているから、自由に飛び回っている鳥たちの群れの空間上の密度が上がれば上がる程に光輝くようになっている。この鳥がたまに下のリンクに向かって飛ぶんだけど、そうすると魚が反応するようになってて、2つの装置同士がインタラクティブになってるんだ。

宇野 僕はショッピングモールに溢れかえる欲望にまみれた大量の人間たちを目にするのが本当に嫌いなんだけど(笑)、この作品はそうした人間の醜いソーシャルな活動を乱数供給源として使って常に変化し続けるアートを繰り上げたわけだ。

個々の人間の自意識は多くの場合美しくないわけだけど、彼らの生物の群としての行動を引いたところから眺めるとなかなか美しかったり、面白かったりするからね。実にチームラボらしい作品だと思うよ。

猪子 実際にアイススケート場だったというのもあって、特に、もう1つの『Strokes of Life』という作品では、人が歩いたりするさまがフィギュアスケートを滑っているかのような作品になったらいいなと思って創ったんだ。リンクの光によって逆光になるから、人間は常にシルエットにしかならないのも大きいね。

その『Strokes of Life』では、リンク上に立つ人から『空書』が生まれて、描かれていくんだ。そして、書の筆跡に合わせて、花、鳥、蝶などが生まれていく。このとき、人間はもはや盤上に描かれる黒い書と一体化するわけだよ。実際には作品が描かれている空間を動かすことで、書を描いていて、これは新しい試みだと思ってる。

宇野 素晴らしいね。人間が作品の一部になって書の一部、ちょっと太めのトメハネみたいに見えるわけだね。そういう意味では、この作品は一番上の階から見下ろすのが良さそうだよね。仮にここで高校生カップルがいちゃついていても、一番上からだと小さな点にしか見えなくて「昼間から盛りやがって」とか思わないで済むわけでしょう(笑)。

猪子 ちなみに、これは50シンガポールドル払えば、特別なバージョン『Strokes of Life - Birthday / Anniversary / Marriage Proposal』もできるんだ。例えば、プロポーズをしたいとしたら、相手の名前をスマートフォンから送ると、リンクの上の人によってメッセージとその名前が空書によってリアルタイムに描かれるんだ。

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▲『Strokes of Life - Birthday / Anniversary / Marriage Proposal

宇野 これ、暇な人が絶対に卑猥な言葉とかを入れるよね。僕が大学生だったら50ドル払ってやるかもしれない(笑)。

(以降、50ドルで卑猥な言葉を入れる話で少し本筋を逸れる)

宇野 でも真面目な話、こうして個人の物語が全面化してしまうような作品をチームラボがやるというのは意外だなと思った。そういうの嫌いじゃなかったの?


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