ドラマ評論家の成馬零一さんの連載『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。第2回では、『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『TRICK』などで知られる映像作家・堤幸彦を取り上げます。1995年に「土9」枠でヒットした『金田一少年の事件簿』は、以降のキャラクタードラマの先駆けとなる、画期的な作品でした。
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成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)第3回 堤幸彦(1) 悪ふざけと革命願望(前編)
1995年。失速する野島伸司と入れ替わるようにテレビドラマの世界で頭角を現したのが、『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系、以下『金田一』)でチーフ演出を務めた堤幸彦だ。
『金田一』は少年マガジン(講談社)で連載されていた人気ミステリー漫画をドラマ化した作品だ。横溝正史の推理小説『八つ墓村』や『悪魔の手毬唄』に登場する名探偵・金田一耕助を祖父に持つ高校生・金田一一(はじめ)が主人公となり、行く先々で起こる殺人事件を探偵として解決していく。
▲『金田一少年の事件簿』
95年4月にSPドラマ『金田一少年の事件簿 学園七不思議殺人事件』として放送された本作は7月から連続ドラマとして放送された。その後、SPドラマ、第二シーズンが放送されたのちに映画化されて大ヒットとなり、堤幸彦は日本テレビから社長賞を受け取った。
堤が手がけたシリーズはここで一旦終了したが、その後、二度もリブートされる人気シリーズとなった。
『金田一』は様々な意味で画期的な作品だった。
まず第一に、本作は10代から20代前半の若者向けのドラマとして作られていた。
本作が放送された日本テレビ系土曜9時枠(土9)は、もともとトレンディドラマブームの余波で作られたドラマ枠だった。しかし、後発ゆえに視聴率の面では苦戦しており、他局との差別化に苦しんでいた。
そんな中、野島伸司が企画した『家なき子』が大ヒットしたことで、ドラマ枠の方向性が大人向けの作品から子供向けへと大きくシフトすることになる。その結果、生まれたのが少年漫画を原作とする『金田一』だった。
本作の成功は、仕事と恋愛が中心だった日本のテレビドラマに、漫画やアニメを楽しんでいたような男性視聴者の取り込みに成功した。
70年代から80年代前半にかけては人気刑事ドラマの『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)や松田優作が主演を務めた『探偵物語』(日本テレビ系)のような男性視聴者に向けた男臭いドラマが多かったが、80年代後半になりバブル景気が盛り上がっていくと、トレンディドラマのような社会で働く女性にとっての仕事と恋愛を描いたものが増えていった。その結果、いわゆるF1層(20~34歳の女性)に向けた作品がテレビドラマの中心となっていく。当時は邦画も停滞期だったため、男性視聴者の多くは漫画・アニメ・ゲームといったオタクカルチャーへと関心が向かっていた。そんな中、少年マガジンのミステリー漫画を原作とする『金田一』は、劇中の犯人を推理するというゲーム的な要素もあって、普段はドラマを見ない男性視聴者からの支持を獲得した
同時に、主演を務めたのが、ジャニーズ事務所に所属する男性アイドル(以下、ジャニーズアイドル)・KinKi Kidsの堂本剛だったことで、アイドルファンの女性視聴者の取り込みにも成功している。つまり本作は、男性アイドルを主人公にした「アイドルドラマ」の始まりでもあったのだ。
今でこそ、テレビドラマの主演をジャニーズアイドルが占めることは当たり前となっている。しかし、当時はSMAPの木村拓哉が『あすなろ白書』(フジテレビ系)等の恋愛ドラマに進出し始めたばかりの時期で、堂本剛も同じユニットの堂本光一と共に『人間・失格〜例えば僕が死んだなら〜』(TBS系)に出演していたが、それはあくまで例外的なもので、俳優とアイドルの境界は、今よりも大きく隔たっていた。本木雅弘、岡本健一といったジャニーズアイドルの俳優業が本格的にスタートするのはアイドルを辞めてからであり、アイドルでありながら俳優としても活動するというスタイルが成立するのは、SMAPによってアイドルが歌、バラエティ、司会、俳優といった多ジャンルで活躍できることが証明されてからである。
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