現役官僚の橘宏樹さんが「官報」から政府の活動を読み取る連載、『GQーーGovernment Curation』。昨今話題の「働き方改革」のような変化が、じつは農村でも起こりつつあります。農業の継続を促そうとする法改正について、橘さんが目的別に分類/解説します。
▲植物工場が身近になる日も近い!?
こんにちは。橘宏樹です。国家公務員をしております。このGovernment Curation(略してGQ)は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。どんな省益も特定利益にも与さず、また玄人っぽくニッチな話を取り上げるわけでもなく、主権者である僕たちの間で一緒に考えたいことやその理由を、ピンポイントで指摘するという姿勢で書いて参ります。より詳しい連載のポリシーについては、第一回にしたためさせていただきました。
【新連載】橘宏樹『GQーーGovernment Curation』第1回「官報」から世の中を考えてみよう/EBPMについて
さて、2018年5月は、マスメディアの最大の関心事は日大アメフト問題であったように見受けました。政治・行政関係では、北朝鮮とアメリカの駆け引きに注目が集まりつつ、森友問題の追求が続いていたというところでしょうか。そのかたわら「働き方改革法案」が審議されて、今般衆議院では可決されました。本稿執筆時点では参議院で働き方改革法案は「高度プロフェッショナル制度」を論点に議論が交わされているところです。
今回のGQでは、やはりこの「働き方改革」を取り上げようか、と実はかなり迷いました。しかし、僕が敢えて扱わずとも、充分に話題になっているので、やっぱりやめにしました。他方、その陰で、農業分野に「おおっ?!」と思えた、興味深い動きがありました。ある意味で、農村での「働き方改革」が進もうとしていることをお伝えできるかなとも思いました。なので、今号では、
2018年5月18日「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律」
を取り上げようと思います。しかし、法律の名前、漢字が11個並んでいますね。しかも「等」とかついてるし。(官界ではこの「等」がくせものです。)そして「一部の改正」。なんかこう、相変わらず、とっつきにくさ満載ですね。なので「そもそも農業とは」的なところから、語り落としをおそれずに、ざっくりと書いてみたいと思います。
農政をざっくり解説:なぜ日本の農業を守らないといけないのか
時に、PLANETS読者の方々は、若い方が多そうですが、地方にお住まいの方もいらっしゃると思います。そのうち、農村ご出身の方はどのくらいおられるでしょうか。そして、現在も農村に暮らす方々はどのくらいいらっしゃるでしょうか。なんとなく少なそうな気もします。
今、日本の農業は現況は厳しいです。ざざっと統計からイメージを拾うと、農業をしている人は、だいたい毎年10万人減っており、2017年の全就業者6500万人のうち180万人です。2%です。そして、その三分の二の120万人が65歳以上です。GDPに占める割合を見ると、2016年の総額約540兆円のうち農業は約5兆円。1%にとどきません。
このままでは、日本では農業をやる人がいなくなってしまいます。じゃあ食料を全部輸入すればいいじゃないか、という議論も一部ではありうるでしょう。しかし、現政府(特に与党)はそのように考えていません。世界では、急ピッチで進む人口増加に対する食料生産が追いついていないという認識があるので、輸入に頼り切ってしまうと不安です。日本人の食べ物は日本国内で生産できるようにしないと、万が一の時に飢えてしまう。というわけで食料安全保障、食料自給率の改善を昨今あらためて標榜しました。
政府の骨太方針原案 「食料安全保障の確立」明記へ (日本農業新聞2018年06月05日)
また、もちろん、農業には食料安全保障以外の価値も豊かに持っています。農林業には治山や環境保全の側面もあります。豊かな田園風景それ自体が国富であるとも思えます。農業を中心とした生活様式やコミュニティ、人々の営みそれ自体も守っていかなくてはならないと思う方も多いでしょう。ゆえに、農業という産業を維持発展させていくために、農業をしている若い人を増やす必要があるという認識に立っているわけです。