宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。5月14日の放送のテーマは「映画にとってMCUとは何か」。映画評論家の森直人さんをゲストに迎え、ディズニーやサブスクリプションサービスといった巨大資本のもと、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)がどのように映画を変えていったのかについて議論します。(構成:籔和馬)
NewsX vol.34 「映画にとってMCUとは何か」
2019年5月14日放送
ゲスト:森直人(映画評論家)
アシスタント:後藤楽々
宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。
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アイアンマン=個人とキャプテン・アメリカ=国家の関係
後藤 NewsX火曜日、今日のゲストは映画評論家、森直人さんです。宇野さんと森さんは長い付き合いなんですよね?
宇野 もう10年以上の付き合いですよね。気がついたら、長いですね。
森 それこそ10年ぐらい前にMCUが始まったときが最初の出会いだったような気がするんですよ。
宇野 森さんは、僕が最も信頼する映画評論家の人のひとりなんだよ。
森 いやいや、恐縮でございます。
宇野 僕は個人的に森さんが書いたものの読者で、僕のほうから是非ともウチの媒体で書いてくださいと声をかけて、それからずっと付き合っています。
森 でも、ちょいちょい良いタイミングで呼んでいただいて、それで毎回おもしろい話なので、今日も『アベンジャーズ/エンドゲーム』(『エンドゲーム』)とMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)いうテーマもさすが。これは宇野さんと話したかった。
後藤 いつぶりなんですか?
森 前は『ラ・ラ・ランド』と『ダンケルク』のふたつを(音楽ジャーナリストの)柴那典さんと話したときに、宇野さんも一緒だった。1年に1回ぐらいは会うんちゃう?
宇野 なんだかんだで1年に1回ぐらいですね。
森 だから、その年の一番注目すべきタイトルが出てくると会うよね。今年は早くも出ちゃったけどね。
宇野 その度に森さんと話さなきゃという気になって、毎回いろいろと理由をつけて呼んでいます。
後藤 今日のテーマは「映画にとってMCUとは何か」です。
宇野 前半は歴代のMCUの歴代の22作品を振り返りながら、各作品について話して、後半はMCUというシリーズ自体が今の映画産業、エンターテイメント、映画という表現自体に対して、どういう影響を長期的にもたらすのかというところまでいけたらいいなと思っています。
後藤 最初のキーワードは「いま、MCUを振り返る」です。
宇野 『アイアンマン』から『エンドゲーム』に至る、トニーがアイアンマンになってから、トニーが死ぬまで22作を順に振り返りながら、森さんと話していけたらと思います。
後藤 年表がこちらです。
宇野 MCUが始まったのが2008年だから、もう11年前ですね。
森 『アイアンマン』は2008年公開でしょ。ここにDCの作品を並べると、面白いんですよ。『ダークナイト』が同じ2008年公開なんですよ。この頃、マーベルとDCはいい勝負というか、DC勝っているんじゃないかぐらいの勢いがありましたよね。
宇野 DCは『ダークナイト』がヒットして『アベンジャーズ』が公開されるまでは、興行収入的にも、映画の評価的にも勝っているんですよね。
森 それがこの10年で逆転しちゃったのも、ひとつの歴史なんですよ。フェイズ1のあたりは、完全にオバマが調子いい時代なんですよ。オバマは2009年の初頭に大統領就任でしょ。だから、『アイアンマン』の1作目はすごく明るくて「イエス・ウィー・キャン」感がすごいんですよ。
宇野 『アイアンマン』と『ダークナイト』の公開時期はほとんど離れていない。でも、『ダークナイト』はブッシュ時代の総括でテーマ的にも露骨に9.11以降のアメリカのさまよえる正義をどう引き受けるかという、すごく時代に沿ったテーマと寝て、世界的に大ヒットした映画なんですね。対して、『アイアンマン』はブッシュ時代があって、オバマに切り替わって、その古き良きアメリカの正義が完全に滅んだ後に、もう一回どのようにしてアメリカらしさを、もっと言えばアメリカ的な男性性を定義するのか、という部分が前面に出ていた。
森 だから、この話を宇野さんとしたかった。MCUの最初は、そこからなんだよね。初期はDCの作品が暗くて、マーベルの作品は明るかった。ただ、だんだんオバマが怪しくなってくると、マーベルの作品も暗くなる。
宇野 クリストファー・ノーランの『ダークナイト』三部作を仮想敵にしていたことは、もう間違いないですよね。元々DCとマーベルはレーベル的にもライバルだし、『アイアンマン』の冒頭もアフガニスタンのシーンから始まる。トニー・スタークというキャラクターに託された、イラク戦争以降のアメリカンマッチョイズムを信じられなくなった男性性の在り方が、『アイアンマン』のテーマ。『アイアンマン』は2や3を観ても、基本的にはトニーの自分探しの話なんですよ。
森 完全にそうですよね。次のエポックでいうと、フェーズ2の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(『ウィンター・ソルジャー』)かな。この映画の監督は、『エンドゲーム』のアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟。MCUにおいて、ルッソ兄弟の監督作がひとつの大きな生命線になっている。最初が『ウィンター・ソルジャー』なんですよ。次が後半になっちゃうんですけども、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(『シビル・ウォー』)。次が『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(『インフィニティ・ウォー』)。そして、『エンドゲーム』。この4作はトランプ時代になっていく流れと、気持ちいいくらい連動しています。
宇野 やはり『アイアンマン』と『キャプテン・アメリカ』というのは誰もが認める対の存在なんですよね。『アイアンマン』は、9.11以降の男性性のあり方、「私」のあり方、プライベートをテーマにやったんだよ。対して『キャプテン・アメリカ』はパブリックなんですよね。イラク戦争以降、9.11以降のアメリカの正義をどう再定義するか。特に2作目の『ウィンター・ソルジャー』、あと3作目の『シビル・ウォー』が、そのテーマを正面から引き受けていっている。
森 僕は『ウィンター・ソルジャー』と『シビル・ウォー』を観たときに、DCみたいじゃんと思った。
宇野 『ウィンター・ソルジャー』はエポックでしたよね。『ウィンター・ソルジャー』までのマーベルの映画はエンターテイメントの映画としてはよくできているけれど、クリストファー・ノーランのバットマンが到達している領域を考えると、もっといろんなものを詰め込めるだろうという不満が常にあった。それを『ウィンター・ソルジャー』でかなり追いついてきた。
森 MCUの作品は批評として語るには、ややエンタメ度だけでいきすぎているところがあったんだけれど、『ウィンター・ソルジャー』からは変わったね。特に『シビル・ウォー』は『エンドゲーム』への流れを考えても重要作。
宇野 『シビル・ウォー』は良いですよね。
森 もしかしたら『シビル・ウォー』は『エンドゲーム』を別格にするとシリーズ最高傑作かもな。
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