消極性研究会(SIGSHY)による連載『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』。今回は西田健志さんの寄稿です。誘いたいけど断られるのが怖くて声をかけられない……。傷付きやすさゆえに消極的になっている人々のために、コミュニケーションの場面でお互いを体面を守る「Face-work」のテクノロジーを紹介します。
Face-workを円滑にする曖昧さ
まだそれほど親しい距離感でもないと思っている相手から「LINE交換しませんか?」と持ちかけられたとき、みなさんは穏便に断ることができますか?今後もまた付き合いがあるかもしれないと思うとむげに断るわけにもいきません。
「私、LINEはやってないんです。」
「父がすごく厳しくてLINEとか全部チェックするから…ごめんなさい。」
「ごめん今、スマホの充電切れちゃっててまた今度でいいですか?」
相手を傷つけないように、そして自分も傷つけないようにちょっとした嘘をついてその場を収めたことが誰しもあるはずです。かかってきた電話に出ないとき、LINEに返事が遅れるとき、飲み会の誘いを断るとき…など同じような場面は日々の生活の中に満ち溢れています。
このような、お互いの体面を保持するために用いられる日常の方策は “face-work” と呼ばれ、社会学・心理学・言語学など様々な分野で研究されています。インタラクションデザインの分野も例外ではありません(こういうとき日本語でも英語でも同じ「顔 (face) 」という言葉を使うのがおもしろいですね)。
2005年のCHI(インタラクションデザイン分野のトップ国際学会です)で発表された “Making space for stories: ambiguity in the design of personal communication systems” という論文を紹介します。タイトルにある通り、コミュニケーションシステムのデザインでは嘘をつくためのゆとり (space) や曖昧さ (ambiguity) を考えることが大切だと提唱している、ちょっと珍しいタイプの論文です。曖昧さが大切とはいったいどういうことでしょうか?
たとえば、この論文では連絡先交換をリース制にするというデザイン案を検討しています。誰かと連絡できる権利はシステムから期限付きで借り受けるもので継続的に連絡をしたい場合には更新が必要。しかも、無料ユーザは〇人分、ノーマルプランは〇人分、プレミアムプランの人は〇人分まで連絡権を借りることができるという人数制限があるというデザインです。
もう一度最初の連絡先交換を断りにくいというシチュエーションに立ち返りましょう。