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成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)宮藤官九郎(9)『タイガー&ドラゴン』(後編) 笑えない噺なんか、誰も聞きたくないだろ?
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成馬零一 テレビドラマクロニクル(1995→2010)宮藤官九郎(9)『タイガー&ドラゴン』(後編) 笑えない噺なんか、誰も聞きたくないだろ?

2020-01-22 07:00

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    ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。今回は『タイガー&ドラゴン』の後編です。古典落語を下敷きに不器用な二人の主人公の生き方を描いた本作が最後に辿り着いたのは、「笑えない現実」に対して、「笑い」はいかに向き合うのかというテーマでした。

    『タイガー&ドラゴン』では、古典落語を下敷きにして現代(2005年)を舞台にしたドラマが展開されるのだが、ドラマ評論家として耳が痛かったのが、第3話「茶の湯」だ。

     竜二(岡田准一)の経営する洋服屋「ドラゴンソーダ」はメッシュ素材のダサい服ばかりなので閑古鳥が泣いていたが、そこに「原宿ストリートファッションの神様」と言われるトータルプロデューサー・BOSS片岡(大森南朋)が現れ、「キテるね」「ヤバいね」と絶賛する。竜二はBOSS片岡とコラボすることになり、片岡が主催するクラブイベント・ドラゴンナイトの入場券代わりとなるリストバンドのデザインを発注される。
     一方、ヤクザの噺家、林家亭子虎こと山崎虎児(長瀬智也)の前には淡島ゆきお(荒川良々)という男が現れる。淡島はジャンプ亭ジャンプという高座名を持つ落語家でアマチュア落語のチャンピオン。古典落語を得意とする粟島は虎児の師匠・林家亭どん兵衛(西田敏行)に弟子入りするが、どん兵衛が口座にかけようとしていた演目「茶の湯」を先に喋り挑発する。
    どん兵衛と淡島、ふたつの「茶の湯」を聞いた虎児は「どっちが面白かった?」と、どん兵衛に聞かれ「笑ったのは淡島のだ、でも、もう一回聞きてえと思ったのは師匠のだ」と答える。

    どん兵衛「……なるほど、確かに演る人間によって印象はガラッと変わる、それが古典落語の面白いところだ、正解なんてのぁ無いんだ、お前さんがどうアレンジするか……」
    虎児「いや……アレンジしねぇ」
    どん兵衛「んん?」
    虎児「こいつの見てて思った、若いとか経験が浅えとかそんなの言い訳になんねえよ、今度こそ古典をきっちりやりてえ……いや、やる」
    (宮藤官九郎『タイガー&ドラゴン(上)』(角川文庫)「茶の湯」の回)

     一方、淡島はどん兵衛から「人に何かを教わるという姿勢が出来てない」と、弟子入りを断られる。
     師匠から教わった古典落語をそのまま高座で話す虎児。寄席ではそこそこ受けるがネットの掲示板では「子虎も終わった」という酷評の嵐、荒々しいキャラクターと古典を下敷きに現代を舞台にしたデタラメな落語が受けていたのだが、その持ち味を壊してしまったのだ。
     対して竜二はデザインのOKが中々出ない。打ち合わせの席には代理店や雑誌編集者、クラブのオーナー、ミュージシャンが同席して意見を言う。一方、BOSS片岡は要領を得ず、挙げ句の果てに、決まったはずのデザインは別のものに変えられてしまう。商品は売れたが、自分のものではないと思った竜二は、売上と商品を突き返し、BOSS片岡とのコラボを解消する。

     虎児はイベントに押しかけ、BOSS片岡に啖呵を切る。

    虎児「お前等が軽々しく『来てる』だの『終わってる』だの言うたんびに一喜一憂してるヤツがいるんだよ、何故だか分かるか? 必死だからだよ、必死にどーにかなりてえ、カッコいいもん作りてえ、面白えもん作りてえって身体すり減らしてやってるんからだよ、分かるか? 自分の言葉に責任持て」(同書)

     竜二は落語家でありながらテレビで汚れ仕事をして家族を養う兄のどん太(阿部サダヲ)とも、寄席で古典落語にこだわる父親のどん兵衛とも違う「自分の好きなものだけ作って、それで売れてみせますよ、直球ですけど」と言う。
     これに対し虎児は「俺も自分が面白えと思う話で笑い取ってやるよ」と返す。
     落語やファッションを題材にしているためか『タイガー&ドラゴン』にはタレントやクリエイターの心の叫びが透けてみえる。特に面白いのは虎児の立ち位置で、本人は古典をやりたいと思っているが、世間が求めているものは、粗暴な振る舞いだったりする。ヤクザで「笑い」がわからない粗暴な男が、寄席とは場違いゆえにそのキャラクターが消費される姿と、竜二のダサいファッションセンスが気まぐれに消費されていく姿が対になっているが、若者向けサブカルチャーの一つとして色モノ的に消費されたくないが、古典をしっかりと演じるほどの基盤もまだ出来上がっていないという、宮藤たち作り手の心境が“直球”で描かれていたと思う。


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