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平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、鮨屋をめぐるエピソードです。客が店を見る一方、店も客を見ているといいますが、カウンターを予約しても個室に通されたり、大将に話しかけても反応が悪かったりと、一度ならず店に冷遇された経験があるという敏樹先生。打ち解けてその理由を尋ねると……?
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脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第57回
男 と 食 28     井上敏樹 

 ここ数年、東京の鮨屋事情がおかしい。どれくらいおかしいかと言うと大変、おかしい。次々と新店がオープンして、大将たちが悉く若い。どれくらい若いかと言うと大変、若い。三十代は当たり前で二十代も珍しくない。先日、雑誌を見ていたら二十三歳の大将が紹介されていてびっくりしてクシャミが出た。私はびっくりするとクシャミが出るのだ。無論、コロナ禍の中で頑張っているのだから応援したいのはやまやまだが応援の仕方にも色々ある。大体独立資金はどこから出るのだろう。おそらく後援者だか共同経営者がいるのだろうが、職人というものは将来の独立を夢見ながらコツコツと修業を重ねその間に技術だけではなく人としても熟成されていくものである。まさに鮨ネタと同じだ。『そんなの、古いよ』と思う向きもあると思うが古い新しいは問題ではない。大体、意見というものは全て古いものなのだ。技術面で言うと、鮨屋は割烹に比べて簡単だと思われている。実際、割烹は面倒なので鮨屋になったという職人を私は何人も知っている。大雑把に言うと、鮨屋は締め物と煮物が出来れば形になるのだ。問題は人間味の方である。割烹にせよ鮨にせよ、晒の店に行く場合、お客は料理だけでなく料理人を食べにいくのだ。もちろん若くても魅力的な料理人は沢山いる。若く、溌剌していてユーモアもありトークは軽妙である。だが、飲み友達ならそれで結構だが、料理人となるとまた違う味わいを求めたくなる。格というか佇まいというか『あ〜、勝てないな〜』と思わせるような雰囲気である。いちいち名前をあげていたらきりがないが、そういう料理人の作る料理は決まってうまい。料理にはやはりその人が出るものであり退屈な者の料理は退屈なのだ。


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