平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、京都旅行でのエピソードです。観光客が少なく、閑散とした京都の街。こんなときこそ、高級食材を次々と出しては普段の倍ほどの料金を取る店があったりと、大将の心意気や店の品格が垣間見えます。そんな中でも、敏樹先生が恐れる大将が見せた名店の格とは……?「平成仮面ライダー」シリーズなどで知られる脚本家・井上敏樹先生による、初のエッセイ集『男と遊び』、好評発売中です! PLANETS公式オンラインストアでご購入いただくと、著者・井上敏樹が特撮ドラマ脚本家としての半生を振り返る特別インタビュー冊子『男と男たち』が付属します。 (※特典冊子は数量限定のため、なくなり次第終了となります) 詳細・ご購入はこちらから。
脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第58回
男 と 食 29 井上敏樹
京都の路地裏を歩いていると、小物屋の店先で手作りのマスクを売っていた。その名も『悪代官マスク』。時代劇で『お主もワルよの〜』と、お決まりの台詞を吐く悪代官が着ているような布柄で作ったマスクである。説明書を見てみると『当店のマスクの紐は画期的にもパンストを使用しております』とある。『もちろん未使用のパンストでございます』と。買った。コロナ禍にあって、こういうユーモアを見るとうれしくなる。さっそく『悪代官マスク』をつけて予約しておいた割烹に向かった。だが、先着していた友人たちの反応が鈍い。あまり受けない。『はいはい分かった分かった』という感じである。私のマスクよりもみんなこれから出て来る料理への期待感で一杯なのだ。今回の京都旅行は総勢5名で2泊、4軒の店を回ったのだが、気づいたのは大将の心意気、店の格というようなものである。コロナのせいで概ね京都は暇であった。ひと通りも少なく、街全体が閑散としている。こんな時に客を迎え、『いいカモだわい』とばかりに次々と高級食材を出して普段の倍ほどの料金を取るような店はどうかと思う。ある割烹など、最初の料理にキャッチャーミットほどのフカヒレが出て来てびっくりしてしまった。その後もマグロだの、牛肉だの、毛蟹だのと続いてこっちはもうへとへとである。大体フカヒレが食べたければ中華に行くし、マグロなら鮨屋に限る。マグロは酢飯と一緒に食べて初めて真価を発揮するもので、お造りにしてもくどいばかりだ。酒にも合わない。話もあまり弾まない。最近ではどこに行ってもそうだが、自然とコロナが話題に上る。コロナばかりではない、今夏の鮎不足を招いた九州での豪雨、或いはアフリカ大陸のバッタの大量発生、さらにアメリカでの新型ウイルスの話、この蝉が媒介するウイルスに感染すると人はゾンビのようになると言う。私はふと、ある先輩脚本家の事を思い出した。私が業界に入ってから、初めて出来た先輩にして友人である。以前は三日と開けずに酒を飲み、夢を語り馬鹿話に興じたが、数年前に糖尿病に鬱病を併発し、田舎に引っ込んでしまった。