今月から、ライター・編集者の中野慧さんの新連載がスタートします。
昭和の長きにわたって「国民の娯楽」であった野球。しかし、社会やメディア環境などの変化により、現在、さまざまな意味で「野球の危機」が叫ばれつつあります。
自身も高校・大学野球を経験し、いわゆる「体育会系」だった学生野球の不自由さから、一度は野球から離れてしまったという経験を持ちながらも、今もなお「文化系」として野球を愛する中野さんが、野球というカルチャーの新たな魅力を考えます。
中野慧 文化系のための野球入門
第1回 はしがき──「野球の危機」の時代に寄せて
みなさまはじめまして、またはおひさしぶりです。
かつてPLANETSのメルマガで「文化系のための野球入門」という連載をしていたライター・編集者の中野慧(なかの・けい)です。現在は、広告系のWeb制作会社で編集者やディレクターなどをしております。
さて、実は私は、このPLANETSのメルマガが日刊化してから2017年夏頃まで編集を担当しておりました。平日毎日更新というのはなかなか大変で、ときに配信するはずだった原稿が落ちてしまうことも少なくなく、空いたラインナップを埋めるために代原として書いていた企画が、上記の連載「文化系のための野球入門」でした。カルチャー誌を出自に持つPLANETS的な切り口で、野球という「体育会系」な「スポーツ」を批評・分析してみようという企画だったのですが、実際に出してみたらPVも反響も予想以上のものでした。
しかし、2017年秋頃に別の会社に行くことになりまして、「続きも頑張って書こう!」と思っており、編集長の宇野さんからも「続き書いていいよ」と言われていたのですが、気づいたら約3年もの月日が経過しておりました。
「このまま未完のまま終わるのではないか……?」
そんな焦りを、コロナ騒動で静かな2020年初夏に感じまして、それから一念発起して日々書き溜めていっている次第です。今回はその初回となります。
この連載を書く動機について
さて、再開に際してまずは、この連載を書く動機について記したいと思います。
そもそも私は、子供の頃は本・漫画・アニメ・ゲームが好きで、運動は苦手という、「文化系」「オタク」な人間で、「野球」などとは縁遠い人間でした。
小学4年生だった1995年、巨人の主力だった原辰徳選手が引退したとき、その話題で盛り上がる小学校の教室に居心地の悪さを感じたことを覚えています。なにせ、原辰徳なんて人物は、そのとき初めて知ったのですから。
「巨人」という存在は認識しておりましたが、大好きだった土曜9時日テレのドラマ(『家なき子』『金田一少年の事件簿』『銀狼怪奇ファイル』等が放映されていた枠です。当時の小学生には大人気を博しておりました)が、たびたび巨人戦中継の延長により放映がズレてしまい、VHSでの予約録画のミスが起きたりしたため、むしろ野球というものに対して負の感情を抱いていたと思います。
あるとき、自分の小学校に野球教室で当時巨人の桑田真澄選手が来たことがありました。その知らせを聞いた野球好きの父親に「せっかくだから行ってきなさい」と、無理やり参加させられたのです。
当然、野球なんぞやったことがありませんので、ろくにできず、むしろ野球チームに入っている同級生たちとの体力とセンスの差を痛感させられました。さらに悪いことに、桑田氏に「全員でランニングしよう!」と言われ「足を揃えて走る」という軍隊風のランニングをやらされたのです。そんな「野蛮」な風習を行わされたことに、文化系少年の私はただただ恐怖感を抱きました。なお、桑田氏に恨みはありません。
そんな私が、その後なぜか野球にハマっていきます。きっかけは、1996年に発売されたPlayStationのゲーム『ワールドスタジアムEX』でした。「イチロー」や「松井」という選手の、あまりの「有能さ」に感動したのです。その後、『実況パワフルプロ野球(パワプロ)』シリーズもプレイするようになり、ゲームからやがて地上波での巨人戦、衛星放送でのパ・リーグの中継、そして地元だった神奈川県を本拠とする横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)のローカル局での生中継を観たり、AMラジオのニッポン放送「ショウアップナイター」や、TBSラジオ「エキサイトナイター」なども聴取するようになっていきました。
折しも当時は「マシンガン打線」や「大魔神・佐々木」を擁するベイスターズが黄金期を迎えていたため、それからすっかり横浜ファンになりました。
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