アニメーション監督の山本寛さんによる、アニメの深奥にある「意志」を浮き彫りにする連載の第17回。
前回に引きつづき、2020年代スタート時点のアニメをめぐる状況を概観します。かつて名調子で親しまれた映画評論家・淀川長治が、スティーヴン・スピルバーグ以降のハリウッド映画を「金儲け本位」と嘆いたように、「売れること」以外の価値基軸が失われているように見える日本アニメの現状。そんな荒廃のなか、日本アニメの外側からやってきた『羅小黒戦記』と『えんとつ町のプペル』の二作が、作品として何を描いたのかを検証します。
山本寛 アニメを愛するためのいくつかの方法
第17回 「堕落したね。金儲け本位になった」-近年のいくつかのアニメ映画作品より
前回引用した映画評論家・淀川長治の言葉を今回は改めてタイトルにまでしてみたのだが、これはNHK-BSで1996年に放送された「淀川長治の映画塾」で出た発言だ。もちろんかの「淀長節」なので正確には再現できないのだが、名指ししたのはスティーヴン・スピルバーグだけでこそあれ、文脈を読むと明らかにスピルバーグ以降のハリウッド映画を批判している。
この「堕落した」という言葉を現代風に「翻訳」したのが評論家・岡田斗司夫だろう。
彼は自身のYoutubeチャンネルで(「【UG】関ジャニ∞村上信五君に評価経済を教えてきた〜愚かなスネ夫になるな!賢いスネ夫戦略とは?/ OTAKING explains "Media Theory in 2028"」)、「巨大メディア、例えばディスニーやNetflixは『恐竜化』している、すなわち巨額のバジェットで作品を作るものだから一本外せば即大ピンチになる。だから誰でも観てもらえるような無難な作品作り以外できなくなっているのだが、それは機動性や多様性を失うことであり、やがて恐竜のように滅ぶだろう」と予言している。
それは確かに当たりつつあるようで、例えば去年、今年のアニメ映画の動向を見るだけでも、今年の「第44回日本アカデミー賞」でアニメーション作品賞にノミネートされた作品が『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』『映画 えんとつ町のプペル』『ジョゼと虎と魚たち』『STAND BY ME ドラえもん2』という、荒廃ここに極まれりと思えるようなラインナップである。
淀川氏や岡田氏の提言をヒントにして、タイトル同様内容が前回と重複するかも知れないが、今回はそんな荒廃の中から『羅小黒戦記』(2019)と『えんとつ町のプペル』(2020)を紹介する。
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