工芸品や茶のプロデュースを通して、日本の伝統的な文化や技術を現代にアップデートする取り組みをしている丸若裕俊さんの連載『ボーダレス&タイムレス──日本的なものたちの手触りについて』。今回は最近丸若さんが取り組み始めたInstagramライブや、新しくプロデュースされる茶筒についてお話を伺いました。SNS時代において、本当に良い「モノ」に出会うために必要な回路を探ります。(構成:石堂実花)
丸若裕俊 ボーダレス&タイムレス──日本的なものたちの手触りについて
第14回 モノへの回路をひらき、ゆるくつながる
モノを中心としたゆるいつながりをつくりたい
丸若 昨年コロナ渦に新たに試みたことの一つに、懇意にさせていただいている、素晴らしい茶屋の代表である櫻井さん(櫻井焙茶研究所)と徳淵さん(万yorozu)との、Instagramでのライブ配信があります。
まず僕たちが持っている共通の課題って、「お茶を飲む時間を用意してもらえるかどうか」なんです。昨年までは、皆さん「お茶をゆっくり飲めるような生活できたらいいのにね」と言いつつ、毎日忙しくてそれが実現しなかった。ところが世界中がステイホームになった今、これは今こそやらないでいつやるんだと。自分が尊敬する同世代のお茶屋さんたちとその気持ちを共有して伝えていきたいなと思ったのがきっかけでした。
ライブの配信内容についてはとことんマニアックにいこうと思っています。ただ同時に、それに対して純粋に僕たちが楽しんでいることや、それぞれのスタイルの違いを僕たち自身が受け入れている姿をちゃんと伝えることに意味があると思っています。
うちと櫻井さん、徳淵さんは、はたからみると一見系統が異なって、そりの合わなそうな印象を持つ方もいると思うのですが、そこが逆に面白いと思っています。もともとの知り合いではあったんですが、僕はお茶のブランドを立ち上げるときに、櫻井さんとご飯に行って、「こういうことがしたい。だけど、僕は絶対にあなたの真似をしない。あなたのやっていることに対して敬意を持っているからこそ、軽率に表層を真似する意義を持つことができない。」と伝えたことを覚えています。あくまで個人的な感想ですが、彼らは所作も含めて美しい、まるで洗練されたなジャズのような存在です。それに対して、結果的に今、僕たちはガレージバンドみたいな存在になっているわけです(笑)。
この三者でのライブ配信では、マニアックなことから、改めて聞けないたわいもない会話まで、ものづくりの過程だけでなく考え方でも勉強になることが多くて、同じ業種間での交流や刺激はその業界の発展には不可欠だと毎回感じています。
1年近く配信を続けることで、お互いの理解や信頼関係は深まったと思います。こうした経験を踏まえて、これからの社会へどう発信していくか? その取り組みも三者で行うことができたらと願っています。茶、道具、時間の楽しみ方をそれぞれの美意識で表現出来る取り組みに繋がっていけたら最高です。
それぞれの世界観を大切にし、実際に道具を使うプロたちの選ぶ物。茶だけではなく職人さんや作家さんと実際に交流することで研ぎ澄まされた道具たち。こうした物に触れることも多くの人に体験してもらいたいです。
Minimalさんや「Maison」の渥美シェフと一緒にお仕事ができるのも(第13回を参照)、お互いのやっていることに対してリスペクトがあって、お互いのお客さんを紹介しあいたい、という思いがあるからです。自分たちが本当に伝えたいことが伝わらない大多数のお客さんを作りに行くよりも、自分たちが信頼できるお客さんたちで、ひとつの緩やかな連合体を作っていこう、ということですね。
コラボレーションとは、お互いのお店を支えてくれる人たちに対しての自己紹介だと思うんです。だからうちはお客さんに対しても、ぜひ他のお茶屋さんにも行ってみてほしいと言っています。
宇野 今は数を売ろうとすると、「流行っているから私も乗っかってみよう」とか「みんながこれを買っているから買ってみよう」とかそういった流れを作り上げないといけなくなる。こういった「他人の欲望」を欲望するのは人間の基本的な性質なんですが、今はSNSでそれが強化され過ぎてしまっている。それはモノそのものとのコミュニケーションを置き去りにする行為なんですよね。だから、お互いリスペクトしあえる作り手同士がつながって、「みんなに出遅れたくない」みたいな最高にくだらないことを考えている人間とのコミュニケーションじゃなくて、きちんとモノそれ自体とコミュニケーションが取れる世界を確保しておくことが、新しい価値を生み出すためにはすごく大事だと思います。
丸若 そうなんですよ。最終的にリアルの場でもそういうことができればいいな、と思っています。架空の中で村を作るというか、サロンというか。同じ価値観を持っている人たちがいるから、ある意味安心してコメントができる、安心してなにかいいって言えるような場をつくりたいですね。
宇野 そのときにそのサロンのメンバーは、誰かの顔じゃなくて、ちゃんと丸若さんの作るお茶や、Minimalのチョコレート、開化堂の茶筒といった、モノを見ることができていると思う。そのことによって「みんながこれを見ているから見よう」というところからちょっと距離が取れる。これはすごく大事なことだと思います。「これは何百リツイートされている。だからすごい」みたいな価値観から離れたところに、丸若さんたちの考えるいいものだけがひたすら並んでいるカタログがある。そんなイメージですね。
丸若 最終的に僕たちが目指したいのはそういうことだと思います。やっぱり21世紀に走りきった人たちがどんなものを残したかっていうのを後世の人たちに伝えることが僕たちの使命であり、やりたいことだと思うんですよね。
モノと出会い、チューニングされていく体験
宇野 今の丸若さんのお話は、これから僕がどんな雑誌を作って、どんなウェブメディアを作っていくのかを考えるときに、大事なことでもあるなと思いました。僕もさすがに「とりあえずバズっている人を載せよう」とは思わないけれど、やはりどこかで「人」を基準に企画を考えている。要するに面白い人を探してきて、面白いことを話してもらったり、書いてもらったりすることを無意識に企画の中心に置いてきた。しかし、それは僕自身もSNSが代表する現在の情報環境に毒されていた結果かもしれないと反省しているんです。だから、いま僕は「人」ではなくて「モノ」や「コト」にフォーカスした企画を中心にできないか考えはじめています。だから、丸若さんがこの半年でこういうことを始めていたのは、すごくシンクロしているものを感じます。
こういう状態だからこそ、人じゃなくてモノが主役の場を作っていって、そこから結果的にコミュニティが立ち上がっていく……ということを僕らはもっと考えたほうがいいと思うんです。
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