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今月から、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成したリニューアル配信が始まります。
時代のトレンドワードになるはるか以前から、独自の「働き方改革」を提唱してきた坂本さん。2010年代後半から取り沙汰されたスローガン先行のブームの現状を点検しながら、ほんとうに自分自身が幸福になるための「私の働き方」とは何なのか、ゼロから考えていきます。

(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉
第1回 働き方改革とは、労働時間の削減ではない

はじめに

 2010年代後半、日本中で「働き方改革」が掲げられ、多くの組織がこぞって働き方の見直しに取り組むことになりました。
 「ワークライフバランス」や「多様性活躍」といった表面的なスローガンはさておき、その取り組みの多くが実質的には「残業削減」や「労働時間短縮」に比重を置いた短期的な早帰り促進施策でした。多くのオフィスで20時になると電気が消され、列をなして従業員が駅に向かって追い出されていきました。そして、多くの人が少しばかりの違和感を覚えながらも、これまでの様々な施策同様に黙って受け入れ、「働かせられ方」を変えていきました。
 しかし、働き方改革というのは、労働時間短縮(すなわち生活時間の増大)をゴールにするべきではないですし、残業が減ったからといって企業や個人の成果が高まるとは限りません。それはある意味「当たり前」なことです。
 企業視点では残業削減=労働力の減少になるわけですから、仕事が納期通りに進めなかったり、対応品質が低下するなどの弊害が発生するおそれがあります。
 個人視点でも、早めに会社を出ることができたものの、一人ファミレスで夜までスマホゲームやSNSに勤しんで「時間をつぶす」ファミレス族が出現するという事態も発生していました。ちょうどこの頃、魅力的なスマホゲームも多数登場しており、私も二次元のスクールアイドルやシンデレラアイドルとのライブにお金と時間を投入し、気づけば夜中になっていて虚無を感じることも少なからずありました。
 他にも、同僚との愚痴会的な飲み会に参加してみたり、「意識高い系」らとの集合写真をとってSNSにアップするために異業種交流会に参加するなどして、可処分所得と可処分時間を浪費する結果になっているケースもあるかもしれません。また人によっては、「残業代」という収入源の縮小をクリティカルなデメリットとして捉えて、ワークライフバランスは実現しながらもライフの充実感は低下するということもあるかもしれません。
 ではなぜ企業は、こんな当たり前のリスクを無視して、やみくもにオフィスの電気を消したのでしょうか?
 実はここに、国や企業の働き方改革プロジェクトが目標に掲げる「生産性向上」というテーマに潜む「罠」があると考えています。
 今回は、2010年代後半当時の働き方改革ブームを振り返りながら、その「罠」について明らかにし、本来あるべき働き方改革の着目点について考えていきたいと思います。

国を挙げた残業削減ブーム到来

 2017年、「働き方改革アドバイザー」として地元関西から出てきて、働き方改革ブーム最前線の東京で日本の働き方改革を後押しすべく活動しようと息巻いていた私なのですが、どうもしっくりきませんでした。
 多くの企業から働き方改革についてのご相談を受けたり、働き方改革のニュースを目にするたび、次第に「これって働き方改革なのか?」と感じるようになりました。それどころか、「働き方改革が間違った方向に進もうとしている」という印象を抱くようになっていきました。
 当時、日本では、「働き方改革関連法」が制定されようというところでした(施行は2019年4月からですが)。その法案の主な内容は、①時間外労働の上限規制(基本45時間/月、例外でも複数月平均80時間以内)、②年休取得の必須化(最低5日)、③正規・非正規従業員の不合理な待遇差の禁止 です。
 先立って2016年には政府にて「働き方改革実現推進室」が発足。「一億総活躍、長時間労働からの脱却と生産性向上の両立」をキーワードに、様々な会議や検討が重ねられていきました。
 2015年に発生した痛ましい過労死問題や、日本中にはびこるサービス残業問題、過重労働問題、非正規雇用労働者との待遇格差問題が世論として噴出し始めたこともあり、こうした「国策としての働き方改革」において、まずは「残業削減」が喫緊のテーマとなったことは、やむを得なかったと思います。

ワークライフバランスの「企業の社会的責任化」

 また、時を同じくして、2016年には女性活躍推進法が実施され、「ダイバーシティ」というキーワードに注目が集まるようになりました。企業は育児休暇制度や在宅勤務制度を導入することが求められるようになり、女性管理職の登用人数目標なども定められるようになります。
 それと合わせて、「男性も女性も等しく仕事だけでなく家庭にも時間を使おう」というワークライフバランスの視点から、長時間労働の是正が大きな課題となりはじめました。
 こうして、国を挙げた働き方改革のブームは、「長時間労働の是正」、「残業削減」が目的・目標になっていると受け止められてしまい、企業や組織の社会的責任としての活動として「やらなければならないこと」になっていきました。
 その結果として、自治体や企業でもその流れを受け、活発に「働き方改革」が叫ばれるようになります。猫も杓子も働き方改革時代の到来です。
 そして、その取り組みのほとんどが、「長時間労働の是正」になりました。

「オイダシ作戦」の決行

 20時になると一斉にオフィスが消灯され、「NO 残業推進隊」と書かれた腕章をつけた人事部・総務部がオフィスを巡回し従業員を追い出します。
 駅には膨大な数の企業戦士らが列をなして帰路に着くという風景がそこかしこで見受けられるようになりました。
 管理職は、グループ会議などで残業の多い部下に「もっと残業減らせ」と指示をするようになりました。そしてこれまで部下が早く帰ろうとするとチクリと嫌味を言っていた上司たちが、「残業バスターズ」などの腕章をつけてオフィス中を練り歩くようになりました。
 とあるIT企業では、時間が来ると自動的にPCがシャットダウンされ、「帰りましょう」と画面に表示されるようになったりもしていたそうです。

 こうした早帰り促進活動によって、多くの人が早く帰ることができるようになりました。いえ、早く帰らされるようになったとも言えます。さて、これって働き方改革なんでしょうか。一人ひとりの働き方は変わり、生産性の向上つまり短時間・省エネルギーでより高い価値を生み出すことができるようになったのでしょうか?


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