(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。
この数年間の「働き方改革」ブームで盛り上がったのが、フリーアドレスオフィスやICT活用などの「働く環境」の改革でした。しかし、多くの現場で、必ずしもその試みが奏功したとは言えない状況があります。なぜ「働く場」を変えてもうまくいかないのか、鋭くメスを入れていきます。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉
第3回 働き方改革とは、働く場を変えることでもない
あらすじ
弊社の事業の一つは、ワークプレイスの改革によるワークスタイル改革を支援することです。
しかし、いえ、だからこそ、私はこう思います。「オフィスを変えただけで働き方は変わらない」と。
多くの企業で、「フリーアドレスを導入したけれど、使われない・成果が出ない」というお悩みを聞きます。さらに言えば、ICTツールを導入しただけでもなかなか働き方は変わらないというケースも多いようです。
本節では、「私の働き方改革」を推進する上で、物理的環境(場)の改革だけでは不足であることを事例で示していき、その理由についても考察したいと思います。
フリーアドレスブームの到来
長時間労働の是正とは別として、もう一つ、働き方改革ブームで熱を帯びるようになった取り組みがあります。すなわち、「フリーアドレスオフィス」の乱立です。「フリーアドレス」、つまり、デスクは個人に紐付けず、毎日自分の席を自由に選んで働けるというオフィス運用スタイルです。以前から営業部門など自席にいる時間が短い職種では、オフィススペースの効率化や賃料削減を目的として、フリーアドレスオフィスがちらほら導入されていました。
それがこの働き方改革ブームの中で、「新しい働き方」として脚光があたり、民間企業も自治体も「働き方改革といえばフリーアドレス」といった感じで、オフィスのデスクから引き出しを撤廃し、椅子の数は従業員数よりも少ない数に設定して、従業員は朝来ると空いている席を探して毎日席替えしながら働くことが「改革的」であるということで、一部でもてはやされるようになりました。
もちろん当社にとってはありがたいブームでした。従来型オフィスから脱皮してフリーアドレスオフィスへの改築が進むということは、オフィス家具の売り上げアップにつながるわけですから。
フリーアドレスオフィスが使われないというお悩みもブームに
しかしながら、そのブームに比例して私たちのところに、「フリーアドレスにしたのに、皆いつも同じ席に座るので困っている」「フリーアドレスにしたら、部下が管理職から離れて座るようになって、チームの会話が減って困っている」「フリーアドレスで期待した、チーム間のコミュニケーションが起こらない」というご相談も増えるようになりました。
最も多いご相談が「フリーアドレスオフィスなのにフリーアドレスな働き方にならなかった」というものです。フリーアドレスなオフィスになったはずなのにいつの間にか皆自分なりの「自分の席」を見つけ出して固定席になっていき、結果として集中エリアやコミュニケーションエリアが使われないままの状態になっているケースが多いです。
さらには、本来フリーアドレスなオフィスでは「自分の席」を持たないため、デスクの引き出しをなくして、書類などは個人ロッカーに都度片付ける働き方になるのですが、「毎回片付けをするのは生産性を下げる」と言い出す人が現れ、足元に引き出し代わりに段ボール箱を設置し、そこに書類が収納されていくケースもあります。
こうした「フリーアドレスの固定席化」はわかりやすい問題ですが、一見フリーアドレスな働き方ができていても、働き方改革視点で見ると「実は根っこは変わっていない」というケースもあります。