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本日のメルマガは、パブリックアフェアーズジャパン代表・藤井宏一郎さんの特別インタビューをお届けします。
企業や個人が市場での活動を通じて平和を目指す「平和マーケティング」。企業が平和マーケティングをおこなうための動機の作り方、テロの時代以降の平和の形とは何か、じっくりと議論しました。
(初出:『PLANETS vol.10』「[インタビュー] 藤井宏一郎 企業はマーケティングを通じて世界平和に貢献できるか」(PLANETS、2018))
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「平和マーケティング」と21世紀の戦争をめぐる諸問題|藤井宏一郎(後編)

平和マーケティングが機能する局面を考える

――「積極的平和論」の観点に立つと、とりあえず「SDGsをがんばりましょう」的なところに落ち着くのは仕方ないと思うわけです。それはまったくバカにした話ではなくて、政治よりも経済、国家よりも市場にパワーバランスが「相対的に」傾きつつある今、政治的ではなく経済的なアプローチで戦争を誘発する構造的な問題に何ができるか、という問いへのアクチュアルな回答なので。ただ、ここではもう少し別のボールを投げる可能性を考えてみたい。平和マーケティングというある種のユニークな発想を使って具体的に何ができるのか。
 例えば、Google やFacebook が広報以上の動機で動くとは到底思えませんが、それでも「今変な法律を作られたら困る」とか「ここで武力衝突が起こると大きな損失が出る」とか「新しい市場があるのに進出できない」といった動機があれば、何らかの戦力になるかもしれないということですね。
 そういった理由で彼らが国家に牽制球を投げるシナリオはあり得るのかは、考えてみてもいいはずです。平和マーケティングはこうしたマクロなパワーバランスを前提にしたとき、初めて機能するように思うんですね。

藤井 今でもそういった動きはあると思います。例えばTPPは経団連も強く推していましたが、あれには広い集団安全保障的なインプリケーションというか、地政学的な配慮があったことは明らかです。軍産複合体が政治を誘導して戦争を起こすという意見もあるけれど、平和なほうが儲かる企業が圧倒的に多いんですよね。全体的な株価の指数は戦争リスクが上がる度に下がっていくから、戦争で得する企業というのはほとんどない。
 その延長でいうと、戦争の前触れはやはり保護主義で、自由貿易がうまくいっているときに戦争が起きることはあまりない。保護主義に対して政治的に抵抗する経済団体はいっぱいあります。確かに、トランプに言われてトヨタが工場をメキシコからアメリカ国内に戻すような政府に対する脆弱性はありますが、アメリカの企業だって保護主義でやられたら困るほうが相対的には多いはずです。そのことが、政治的な抑止力として働くとは思います。
 具体的な動きでいえば、現在のNGOには3種類あるんですが、企業もそれらの役割を引き受けることができると考えています。第一に、現地支援型のマイクロファイナンスや保健衛生。これは企業でもできるわけで、BOPビジネス、フェアトレード、インフラファイナンスといった、いわゆるSDGs活動がそれに該当します。第二に、政策提言型NGOがあって、武器禁止条約を成立させようとしたり反核運動をしたりしているNGOがあります。その経済版がいわゆる経済団体が行う政策提言活動で、経済団体が政府に対して力を増せばここは当然強くなっていく。第三に、見過ごされがちだけど大きいのは、国際親善型のNGOで、人々の相互理解を深めたり2ヶ国間交流を広めようとしている団体。これもコンテンツ産業、メディア産業、観光産業、教育産業などが肩代わりできる。この領域で企業に何ができるかはもっとハイライトされていいと思うんですよね。特にメディアが平和に対して持つ力はすごく大きいと思います。
 この中では政策提言型が、これからさらに大きくなると思うんですが、しかし程度問題だという気はしていて、次のフェーズに変わるところまで行けるのかは、ちょっと見えないですね。

国内経済の安定化が「新しい戦争」を未然に防ぐ

――少し視点を変えると、国家間の領土問題で衝突するとか、政情不安定な地域が内戦になるとか、こうした旧世紀的な「戦争」と、今の西ヨーロッパで起こっているイスラム原理主義勢力のテロのようなものの連鎖では、また対応が違うと思うんですよ。

藤井 それは、イスラム原理主義の根底にあるのは経済の不安定化よりも、もうちょっと宗教的、文化的なコンフリクトのほうが大きいんじゃないかという、そういう議論ですか?