第19回
「知人が、高校を中退して美容師になると言っているのですが……」
相談者:ひじきさん(東京都・23歳女性・大学生)
Q.
知人の高校生(Aさん)について、相談させてください。
よくある話だと思うのですが…
Aさんは勉強が苦手かつ嫌いです。学校の成績が悪く、進級が難しい状況です。
ミュージシャンを目指していたところ壁にぶつかり、美容系に進むことを考えたそうです。
そこで早く専門学校へ進むため、高校を退学したい、と思っています。
学校では先生から「お前はどうでもいい」と言われ、見放されている様子。
ちょっと危ない人付き合いもありそうですが、本人はとても人懐っこくておしゃべりが面白い子です。
「高校を辞めるから勉強はしなくていい」というAさんに対し、私はありきたりながら、
「将来を考えたら、職探しが少しでも有利になるためには高校を卒業したほうがいいと思うよ」
「美容師の道も狭くて険しいから別の仕事をするかもしれないじゃん」
「進級して卒業するまでは勉強しよう」と言うのが精一杯で、それ以上は言葉に詰まってしまいました。
学校の勉強が苦手なことは全く責めるべきことではないですが一方で、
美容や美術など、「とりあえず」ではやっていけない、強い意志が必要な世界だとも思います。
べつに私はAさんの人生について全面的に責任を負っているわけではないし、なにを言ってもお節介になってしまうかもしれません。
けれど、あのときあんな受け答えでよかったのかな…と、ふとした瞬間に思い出してしまいます。
同じような状況の高校生はたくさんいると思うのですが、どうやって話をすることが相手の方にとって最善になったのでしょうか。
アドバイスいただけたら嬉しいです。
A.
ご相談ありがとうございます。
仰る通り、「よくある話」だと思います。これまでも数え切れない程、同じような物語が繰り返されてきたのでしょう。僕が名前も知らない彼らはその後どうなったのだろうか……とよく考えます。本人としてはその時は一生懸命に考えて判断しているつもりなんですね。でも、客観的に見ると、どうしようもなく不適切な判断。しかし、そもそも本人が周囲からのアドヴァイスを聞ける状態にないから、そのことを伝える術がない。
僕もそのような状態に陥った経験がありますね。大学生の時に突然「中世のアラブ哲学をやる」とか言い出して、アラビア語を勉強し始めたりして…。でも、そういう道にはいかなかったし、行けたはずがないんですね。そこまでしてアラビア語をやりたかったかといえば、そんなこともなかった(フランス語の方を熱心に勉強していた)。じゃあなぜなのかというと、なんか、よく分からない。当時としては理由があったし、それも多少覚えているんですが、どうでもいいことなんです。しかしそれが本人には重要に思えてしまう。
じゃあ、この熱病みたいな思い込みをどうやって解除するかというと、僕の場合は周囲から指摘を受けることによってでしたね。「國分君、なんだかんだ言ってフランスの現代思想が好きなんでしょ?」とか「いきなり中世のアラブ哲学とかって、それ、やばいよ」とか。多少時間はかかりましたが、何とか熱病の熱は下がっていきました。そういうことを言ってくれる友人なんかが周囲にいたわけですね。運がよかった。