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山田玲司のヤングサンデー 第152号 2017/9/11

「今も教室に住んでいる人」とは?

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それは「サウナ」で起こった。


その日の僕は、放送の後の余韻と混乱で、どうにも漫画のアイデアが浮かばないので、近所の健康ランドに行く事にした。


そこは昭和風の温泉テーマパークで、「温泉」と呼べるほどのお湯には感じないけど、何しろ露天風呂で月が見える。

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サウナもあるので、血流は良くなるし、疲れてヨガをやる体力が残っていない時にはありがたい。

そういえば昔描いた「ココナッツピリオド」のエンディングのアイデアはそこで浮かんだ。


今回も何か浮かぶだろう、と、1人でサウナ室に入る。

お客も少ないし、いい感じだ。


ところがだ。


サウナ室に設置してあるテレビがしょうもない民放のニュース番組を流し始めた。



山尾さんとかいう女性議員が神妙な顔で現れた。

どうやら「不倫」なるものを週刊誌にすっぱ抜かれ、責任を取って辞任する、とか言っている。



辞任するという女性議員がどんな人かはわからないけど、ニュースは、さも「大罪を犯した女」みたいに彼女を叩き、嘆いて、呆れている、みたいな感じになってる。


どうもその女性議員は、過去に不倫報道をされた議員を批判していたらしく、「お前だってそうじゃねえか」とばかりにコメンテーターは公開リンチに盛り上がっている。

議員辞職会見は、悪代官が追い詰められ、正義の鉄槌を降される瞬間みたいだ。


なんだかここ数ヶ月民法もネットもこんなのばっかりになってる。

中学生を叩いたとかいうジャズミュージシャンにもみんな怒ってる。・・・らしい。



こういう話を書くと「山田さんはどっち側ですか?容認側ですか?否認側ですか?」なんて聞かれるけど、そんなもん「知らないものはわからない」に決まってる。


そもそも「愛の問題」は当事者にしかわからないものだし。人生の全てが「完全なる潔白」なんて人はいないからだ。


そして人生は想像以上に複雑にできている。


フレンズでは、お父さんに不倫相手がいる事を知って「母さんが可愛そうだ!」と、大騒ぎする息子ジョーイに、お母さんが言う。


「お父さんはあの犬の葬儀屋(お父さんの恋人)と付き合い出してから優しくなったし、おかげで上手くいってるんだから、余計なことはしないでちょうだい」と。


さすがフレンズ脚本チーム。「人生の複雑さ」がよくわかってる。


これは今まで叩かれてきた「芸人」や「ミュージシャン」や「研究者」なんかにも言えるだろう。

簡単に非難できる事なんかそうそうあるもんじゃない。



ところがこの国のマスコミは「悪いヤツ」と決めたら絶対に許さない、みたいな雰囲気になる。

気がつくと僕のいるサウナ室までそんな雰囲気になっている。


僕の隣にいたおっさんは、その会見を見て「ひでえ女」と、ため息をついた。


何だか嫌な気分になって僕はサウナを出た。

何か「変なウイルス」を吸ってしまったみたいな感じだ。



それにしても、日本のマスコミはずっとこうだ。


「叩きやすそうな人間」を見つけては、「世間知らずの学級委員長」みたいな底の浅い正義感で容疑者を袋叩きにしていく。

特に昔人気があったり、清純なイメージで売っていたりした人ほど「袋叩き」は盛り上がる。



なんだかこれ、学校の教室で行われている「いじめ」と変わらない。




おまけに叩かれる人は「名前のある個人」だけど、叩いてるのは「みんな」という名前のない存在だ。


「みんな言ってるよ」とか言うものの、そもそも「みんな」とは誰なのかもわからない。


不倫疑惑の議員も「世間をお騒がせした責任」とか言うけど、迷惑をかけられた「世間」ってのが何者なのかも曖昧だし、そもそも「はるかに迷惑なこと」をやりながら平然と公務についてる人もいる気もする。


誰かを叩く事で日々のストレスを解消するのが「ニュース番組」や「ワイドショー」の仕事になってる感じだ。



そう言えば、今から13年前に僕が描いた「ゼブラーマン」の冒頭にも同じ様なシーンがある。

朝のワイドショーで見る「人の不幸」が「心の朝ごはん」とか描いている。

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この状況は今も変わらないどころか、まるで国全体が「いじめのある教室」になってるみたいだ。





いじめの起こる「学校の教室」とはどんな所だろう?


僕はそこは「世界が見えない場所」だと思う。