日本ではフレンチレストランでも6時に予約するが、
巴里では7時か7時半からしか予約を受け付けない。
ディナーが始まる時間が遅いのだが、
そもそも巴里の7時半はまだ日が沈んでなくて、
日本の午後4時くらいの明るさだ。
8時過ぎに夕陽が射し込んでまぶしくなるくらいだから、
いまいちディナーの雰囲気が出ない。
英語は妻が担当、フランス語はわしが担当で
手分けすれば、2人とも幼児並みの拙い意思表示だが、
なんとか楽しく食事できる。
そもそもわしが年取って貫禄がついたため、
巴里では敬意を払われる。
老人になるほどに敬意を払われるのがヨーロッパの良い文化で、
日本はガキがのさばって、老人がシケた雰囲気になり、
若者から馬鹿にされる。
これも日本のダメな文化だ。
だから巴里がわしにとって心地いい面が大いにあるのだ。
秘書みなぼんの役割はワインを飲むことだ。
これが貴重な役割で、みなぼんがいなければ
フルボトルで頼むことが出来ない。
10年前はわしとみなぼんで赤白2本を五分五分の勝負で
飲んでいた。
つまり1人一本空けることができたのだが、
今はもう2人で一本しか飲めない。
それも四分六分でわしの方が少量になってしまった。
ワインはフルボトルで飲んだ方が圧倒的に美味い。
自分で選んだ方がカンが働くようになるだろうから、
リストを見て考えるし、飲んで美味かったら最高に嬉しい。
あとで値段を聞いて怒るのはいつも妻の役目で、
みなぼんはケラケラ笑っている。
酔っ払ってるから、わしはケ・セラ・セラと笑っている。
ディナーが終わるのは10時半になるが、
外に出てもまだ暗くなっていない。
空が藍色で夜の雰囲気が出ない。
朝も早く開けるから夜の時間が短いようだ。
貴族になって毎日こうして暮らせたらいいなと夢想しながら、
タクシーでホテルに帰るのである。