芥川龍之介からの電話
芥川龍之介から電話が入った。
本当に勘弁して欲しい。
僕は忙しいのだ。
今回の投稿で何のリアクションもなかったら、いよいよヤバイのだ。
僕はトリパンダ。
もうすぐ30代も半ばを越えるフリーライターだ。
10年前には、そこそこあった雑誌の仕事も出版不況で激減した。
ギャラの下がった仕事をベテランと取り合う暮らしに疲れて「小説」を書き出してもう10年は経つ。
鳴かず飛ばずのまま10年だ。
おまけに昔はそこそこ人気のあったブログの読者が減り続けている。
起動に乗ったら有料化を目論んでいたのに、無料でも読んでくれないのだから話にならない。
「数ばかり気にしてるけど、大事なのはそこじゃないと思う」
これは7日前に彼女が僕に言った言葉。
この言葉が引き金になって、僕らの会話は「前向きな議論」から「そもそも論」へ。
そして「言った言わないの攻防」にまで転がり落ちた。
ひどい言葉を言ってしまった気もするけど、電気もガスも止められそうな売れない中年ライターが「いつも優しい」なんて事はありえない。
ともかく、あれから彼女から連絡はない。
あれだけ多くの通信手段を抱えていながら何も連絡がない。
電車の中で、僕は何度もスマホを確認していた。
こういう時にしつこく連絡を入れるのは逆効果なのは学んでいた。
そこに来た着信が「芥川龍之介」からだったのだ。
そもそも今どき直接電話してくる人なんかめったにいない。
僕の知ってる人では、デリカシーのない「実の兄貴」くらいだ。
第一僕はスマホに「芥川龍之介」なんて名前を登録した覚えはない。
何かのバグかもしれないけど、何度もかかってくるかもしれないし、その度に「彼女かも?」と動揺するのもバカバカしい。
ちょうど乗り換えの駅に着いたので、僕はその駅のホームで電話に出た。
「はい?」
「何を見てる?」
電話からは、男の低い声がした。何だか苛立っているみたいだ。
もしかしたら、彼女のいたずらかも、という僕の淡い期待は吹き飛んだ。
「あの・・何の話ですか?」
「君が書いた列車事故の記事の話だ」
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