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めるまがアゴラちゃんねる、第093号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(104)
ガンホー「パズドラ」対ミクシィ「モンスト」
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(104)
ガンホー「パズドラ」対ミクシィ「モンスト」
2014年1〜3月決算で、注目を集めたスマホゲーム企業は、パズルゲーム「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」を持つガンホー・オンライン・エンターテイメントのブームがいつまで続くのかと、アクションゲーム「モンスターストライク(モンスト)」の予想外のヒットから赤字から一気に黒字転換に成功したミクシィだろう。
この2タイトルが、現在、日本のスマホ市場で1〜2位を競う状態になっている。この2社の決算を読み解いて行こう。
■市場の成熟が見える中、好業績のガンホー
3月に、マーケティング会社CyberZが3月に発表した、13年の日本国内のスマートフォン(スマホ)向けのゲーム市場は5468億円と推計している。13年の国内の家庭用ゲームソフト市場規模は2537億円であったため、実に2倍以上の差がある。ただ、この推計値は肌感覚よりは高いという印象が若干するため、注意が必要ではあるが、日本のスマホゲーム市場が好調であることを示していることは間違いない。
ガンホーの14年1〜3月期決算は、売上449億円、営業利益が287億円と過去最高益を記録し、「パズドラ」ブームが引き続き続いている。13年10〜12月期が売上467億円、営業利益は227億円と営業利益は減少傾向が続いていたが、広告宣伝費を縮小したことで、その分利益が回復したという状態だ。
調査会社ビデオリサーチインタラクティブ発表した調査では、12年2月の調査では個人のスマホの所有率は27%だったが、14年2月には54%にまで増加している。
また、そのうち若年層のユーザ数は、15〜20歳、20代の数値は、男性で70%、女性では80%を超えている。その層はゲームを熱心に遊ぶ層でもあるため、新規にゲームユーザーになり得るユーザーの多くにスマホが行き届いている状態になっていると考えられる。そのため、今後、日本国内の市場成長は緩やかになってくると考えられる。
しかし、それでも、アップルのAppStoreやグーグルのGoogle Playといった、コンテンツ配信サービスでは上位集中が起こりやすい傾向があるため、トップ売り上げランキングを押さえているガンホーの優位性はまだ揺らいでいない。
ガンホーは、企業規模の拡大に慎重で、現在の社員数は320名。多数のタイトルをリリースするのではなく、主要タイトルに注力して戦略を展開するスタイルを貫いている。
いつまでガンホーの優位性が続くのか、というのは、予測することは不可能に近いが、25日に、7月に「パズドラW」のリリースが開始されることが明らかになったためユーザーを容易に移行できるかどうかは焦点になってくるだろう。
■「パズドラ」を追撃する「モンスト」
ただ、パズドラ人気に陰りが起きているのでは、と注目を集めた瞬間があった。15日に、ミクシィの「モンスト」が、瞬間的にApp Storeのトップ売り上げランキングで、パズドラを抜いて首位に立ったのだ。
もちろん、アップルがどのように計算しているのかというアルゴリズムは公開されていないため、どれくらいの金額で追い抜いたのかといったことはわからない。しかし、日本のチャートでは1年半、一度も1位の座から落ちたことがなかったパズドラに土を付けたのは事実だ。
ただし、翌日にはすぐに「パズドラ」が1位に返り咲いている。「お詫び」と称して、ユーザーにゲームを進める上で有利になる、モンスターキャラクター「たまドラ Lv.1」を無料配布するなど、関心が移らないように手を打っている。現在は、パズドラが1位、モンストが2位という状態が続いている。
モンストのヒットは、筆者は率直に過小評価をしていたことを認めざる得ない。昨年10月にリリースされたこのゲームは、昨年12月末から1月にかけての年末年始の休みにかけて、サーバトラブルを頻発しており、ゲームを継続的に遊ぶことが難しい状態だった。また、当初のゲームのテンポもバランスも決して良いとは考えられず、一時的な人気に留まるとみていた。
しかし、実際には、ブームは続き12月末に100万ダウンロードを達成した後、順調にユーザー数は増え続けた。3月頃に筆者も遊ぶと、ゲームのバランスも良くなっており、確実に質も高まっていたことに驚かされた。
5月17日には700万ダウンロードを達成したと発表が行われている。パズドラが現在2700万ダウンロードであることを考えると、まだまだ差があるが、ウェブブラウザゲームの人気ゲームの代表格「アイドルマスターシンデレラガールズ」(DeNA・バンダイナムコゲームズ)の登録ユーザー数がサービス開始から、2年間で300万人であることを考えると、人気の広がり方の速さには驚かされる。
■ミクシィの業績は一気に改善
ミクシィの売上はモンスト効果で一気に増加。14年1〜3月期の売上は57億円、営業利益は9億9000万円。売上の53%の31億円が、モンストを運営するコンテンツ事業部という好成績を納めている。13年10〜12月期はコンテンツ事業部の売上は2億円しかなかった。また、営業利益も1億円の赤字だった。
ヒットの要因は、結局、ユーザー離れが激しいと言われていたミクシィだったが、それでも利用しているユーザーはまだまだおり、そのユーザーに向けたバナー広告の効果が高かったと考えられている。
そこに、4人同時プレイ可能という今までのソーシャルゲームになかった要素が組み合わさり、また、ピンボール玉を飛ばして遊ぶというゲームが、新規ジャンルを切り開くことにもなったために、パズドラに飽きてきたユーザーがシフトしたと考えられている。
特に、10〜20代の中高生から大学生にかけて、遊ばれているようで比較的ソーシャルゲームにお金を使ってきた20〜30代というユーザー層よりも年齢が低いとみられている。ユーザー人数が増え始めてからは、友達が他の友達を呼び込むという口コミの効果が大きく機能しているようだ。
モンストの特徴は、無課金でも、相当遊べるような仕組みになっていることだ。通常、「ガチャ」と呼ばれるモンスターを手に入れる仕組みを利用するためには、1回300円程度のお金がかかるのが当たり前だが、この利用権を無料で全てのユーザーに配布することを頻繁に行っている。特にサーバトラブルが起きた後にも、その権利を配布することで、ユーザーの関心を持続するようにしているのだ。
短期的に収益を得るというよりも、無料で遊ぶユーザーでも、相当遊べるようにする。それで全体のユーザー数を常に一定数に保ち続ける。その方が長期的にダウンロードして遊ぶユーザーの数が多く、結果的に、有償で遊ぶユーザーは少ないとしても、母数の多さによって利益を得る。
多数のゲームを展開することが有利にならず。単体の大ヒットタイトルに、多数のユーザーを囲い込むのかに、ソーシャルゲームで業績を上げるための条件は変化しつつある。この動きは、ガラケー時代にはトップを走っていたディー・エヌ・エー(DeNA)やグリーにも広がりつつあり、ソーシャルゲームのあり方そのものの変化が進んできている。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin