主張
TPP交渉と医療
公的保険の掘り崩しを許すな
次の首相に就任する自民党の安倍晋三総裁がオバマ米大統領との電話会談で、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加を来年1月の日米首脳会談で議題にすると表明するなど重大な動きをみせています。日本の食と農業に大打撃を与えるだけでなく、医療などの各分野に「アメリカ型ルール」を押し付けるTPPには医療団体が「公的医療保険を揺るがす」と反対しています。国民の命と健康にかかわる問題を二の次にするTPPに突き進むことはやめるべきです。
世界に誇る制度を危うく
多くの医療関係者がTPP反対を表明しているのは、“誰でも、いつでも、どこでも保険証があれば医療を受けられる”国民皆保険制度が実質的に解体される危険が明らかになっているからです。
TPPは「非関税障壁」撤廃の名の下に参加国の制度や規制をつくりかえることをめざしています。アメリカの狙いは「市場原理主義」を「国際ルール」として押し付けることです。医療分野で「アメリカ型ルール」が持ち込まれれば、患者の支払い能力の違いで受けられる医療に差がつけられるのが当たり前の社会になってしまいます。TPP推進を求める日本の財界も同じ立場です。
これまでもアメリカは自国の民間保険会社や製薬企業などの利益のために日本に市場開放を迫ってきました。公的保険と自費診療の併用を認める「混合診療」の全面解禁や、営利企業(株式会社)による医療機関への経営参入などはアメリカや日本の財界から繰り返されている要求です。
「混合診療」の全面解禁で、先進医療などは自費による診療が優先されるようになり、「必要な治療はすべて公的保険で行う」という原則を根本から壊します。だからこそ日本の皆保険では、お金を出せる人しか手厚い医療を受けられなくなり「医療の格差」を拡大する「混合診療」を基本的に禁止してきたのです。
日本の国民皆保険は、必要な医療を国民に平等に保障する公的保険制度として50年以上にわたり国民の命と健康を支えてきました。日本の長寿社会に大きく貢献した制度として国際的に高く評価されています。TPP参加で世界に誇る制度を掘り崩し、「命の格差」を拡大することは許されません。
民主、自民、公明3党が強行した消費税大増税と社会保障の「一体改悪」関連の社会保障制度改革推進法で、公的医療保険の範囲を縮小する方向を打ち出したことは、皆保険の空洞化を進めるものです。安倍総裁が、経済財政諮問会議の再起動を決めたことは、社会保障費削減、「混合診療」拡大などを求めた「構造改革」路線の復活・強化を狙ったものです。「規制緩和」「市場原理導入」の流れをよみがえらせ加速させることは、社会保障制度の再生・充実を求める国民の願いに真っ向から反します。
国民的共同さらに広げ
TPP推進の野田佳彦政権・民主党が総選挙で惨敗したことは多くの国民がTPPに疑問と不安を抱いていることを示しています。
日本医師会など40団体でつくる国民医療推進協議会は「医療の格差に繋(つな)がるTPP交渉への参加反対」などを掲げた運動をすすめ21日には東京で大会を開きます。TPP参加反対の広範な国民的共同がますます重要です。