主張
NHK経営委員
お友だちだから、かばうのか
日本軍「慰安婦」問題を「戦争しているどこの国にもあった」と弁護した籾井(もみい)勝人NHK会長の発言が批判をあびているさなか、籾井氏を会長に任命したNHK経営委員会の委員で作家の百田尚樹氏が東京都知事選の元航空幕僚長候補の応援演説の中で「南京大虐殺はなかった」などと発言し、批判をあびています。NHKの経営委員が特定の候補者を応援するのも、「南京事件はなかった」などと歴史を偽るのも大問題です。籾井氏の発言を「個人的発言」とかばっている安倍晋三政権が、百田氏をも「個人の行動」とかばっているのはきわめて大きな問題です。
公正中立の原則に反する
百田氏の発言は3日、同氏が元自衛官の都知事候補を応援して都内でおこなった街頭演説の中でのもので、都民も聞いています。
NHK経営委員会は、NHKの経営方針や毎年の予算・事業計画、番組編成の基本方針などを決め、役員の職務執行を監督する大きな権限を持っており、NHK会長の任命もそのひとつです。経営委員の政治活動を禁止する明文の規定はありませんが、「服務に関する準則」では、経営委員は「放送が公正、不偏不党な立場に立って」おこなわれることを自覚し、誠実にその職務を果たさなければならないとしています。特定候補を応援すること自体、NHKに求められる公正中立の原則を踏みにじることは明らかです。
放送法31条はNHKの経営委員について、「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する」人物を選び、国会の同意を得て首相が任命すると定めています。この点で、百田氏が特定候補を応援しただけでなく、「南京大虐殺はなかった」などと公言したことは重大です。
「南京大虐殺」は、日本軍が日中戦争さなかの1937年12月、当時の中国の首都・南京を占領したさい、市民や難民、捕虜を組織的に殺害し、略奪、放火、女性への暴行など残虐行為をおこなったものです。犠牲者の数については議論があっても大虐殺があったこと自体は政府や軍の報告、当事者や目撃者の証言などで明らかになっている歴史的事実です。それを「なかった」などと否定する人物がNHK経営委員に求められる見識に欠けていることはあまりに明白です。
百田氏を含む5人の経営委員は昨年末安倍首相によって任命されました。5人を含む新しい経営委員会が任命し、就任したのが籾井会長です。百田氏と同時に経営委員に任命された大学名誉教授の長谷川三千子氏も、男女共同参画を批判したり、新聞社を脅して拳銃自殺した右翼団体元幹部を礼賛したりした言動で批判されています。安倍政権に任命されたNHK経営委員の見直しが不可欠です。
首相の任命責任問われる
見過ごせないのは百田氏も長谷川氏も、安倍首相に極めて近い人物だということです。百田氏は雑誌などで安倍首相と対談を重ね、首相の靖国神社参拝などに“期待”を表明してきた人物です。長谷川氏は安倍首相実現を求める「民間人有志の会」の代表幹事でした。
安倍首相の任命責任は重大です。放送法では首相が経営委員を罷免することもできます。安倍首相があくまでかばい続ければ、政権の責任が問われることになるのは免れません。