主張
農業「規制改革」案
財界本位の構想を許さない
安倍晋三内閣は、政府の規制改革会議が5月22日に提出した「農業改革に関する意見」をしゃにむに具体化しようとしています。その内容は「非連続的な農業改革を断行する」と「意見」がいうように、農業協同組合や農業委員会制度の解体的な「改革」や営利企業の農地所有の解禁など、家族経営とその組織を基本として進めてきたこれまでの農業政策のあり方を根本から覆すものです。
農政を根本から覆す
農業委員会の見直しで「意見」は、市町村農業委員会の公選制を廃止し、行政庁への意見・建議を業務から除外するなど、農地所有者、農家の参加を排除し、市町村長の任命による少数からなる委員会に改変するとしています。それは、独立の行政委員会である農業委員会を市町村長の下請け機関に変質させるものです。
農業生産法人の見直しでは、農業と農業関連の事業を主とするとしてきた事業要件をなくし、役員の過半が農業に従事するとしてきた要件を、「1人以上が農作業に従事」すればよいとしています。これは、営利企業による農地の利用や所有を大幅に認め、大企業などが農業生産法人として農地、農業に進出する条件を格段に広げるものです。
農業協同組合では、中央会組織としてのJA全中(全国農業協同組合中央会)を廃止し、全農(全国農業協同組合連合会)は株式会社化する、単位農協の事業から信用、共済事業をとりあげ、委託、窓口業務に限定するなどとしています。系統組織の解体であり、総合農協という日本の農協運動の大事な特徴を壊すものです。
この提案は、安倍首相のいう「企業がもっとも活動しやすい国」を農業分野で実現し、農家の経営や地域社会を維持するうえで大事な役割を担ってきた制度や組織を解体するものとなっています。
しかも、日本共産党の紙智子議員の質問に後藤田正純農水副大臣が認めたように、農協や農業委員会の解体は「関係者から要望は出されていない」(5月22日、参院農水委員会)のであり、農業関係者を無視して、規制改革会議を構成する財界代表の従来の主張を盛り込んだ極めて異常な内容です。
農業の現場は、農産物価格の低落や担い手の高齢化などの困難を抱え、農政の転換を切実に求めています。それは、関税の撤廃・削減が焦点になっている環太平洋連携協定(TPP)交渉からの脱退であり、輸入圧力や価格競争で下落が続く米をはじめとする生産者価格の安定や、地域農業の担い手の確保です。この農民の声に農協組織や農業委員会が応えることをこそ、政治が支援すべきです。
地域農業の再生に逆行
今年は「国際家族農業年」です。これまで築いてきた家族経営とその共同の再生こそが喫緊の課題です。「意見」はそれに逆行し、家族経営と農民の自主的な組織を破壊し、財界が進めようとする農業と農地を営利企業のもうけの場にする構想です。安全な食料の確保と食料自給率の向上をはじめ国土・環境の保全と農村社会の維持・発展、国民生活の向上にとっては“百害あって一利なし”です。
政府は、「農業改革」の名の下に財界がごり押ししようとしている農協や農業委員会つぶしを、ただちにやめるべきです。