主張

労働時間法制改悪

歯止めなどとはとてもいえぬ

 安倍晋三政権がねらう労働時間法制の改悪のために、厚生労働省が諮問機関である労働政策審議会の分科会に報告書案を出し、正式決定をねらっています。報告書案は、「高度プロフェッショナル制度」の名で「1日8時間、週40時間」の労働時間規制が適用されない労働を導入し、フレックスタイム制や裁量労働制についても規制を大幅に緩和するものです。まさに「残業代ゼロ」で「過労死」を促進する労働時間法制の改悪そのものであり、対象を「高所得者」に限定することやわずか5日間の有給休暇の消化義務付けなどでは、なんの歯止めにもなりません。

「8時間労働」の原則崩す

 「高度プロフェッショナル制度」は、一定の年収条件や高度な専門業務に従事する人を、「時間」ではなく「成果」で賃金を決めるという理屈で労働時間法制の適用除外とするものです。日本だけでなく世界の労働者が長いたたかいで勝ち取った「8時間労働制」の大原則を根本から破壊するものです。かつて政府や財界・資本家側は、「ホワイトカラー・エグゼンプション」という労働時間法制の適用除外制度の導入を企て、労働者の反対で中止したことがありますが、その復活をねらっているのは明らかです。

 労政審分科会の報告書案は、1年間に支払われる賃金が平均の3倍を上回ることを法律に書き込み、具体的には省令で「1075万円」以上などと定めるとしていますが、いったん制度が導入されればいつまでもそれが守られる保障はありません。対象業務を金融商品の開発業務やディーラー、アナリストなどとしているのもあいまいで、政府と企業側の判断で、対象者はどんどん広がりかねません。

 労働時間規制の適用が除外されれば、「成果」が上がろうが上がるまいが、何時間働かせても法律で規制されることはなく、残業代も支払われません。深夜労働や休日労働の割増賃金も支払われなくなります。文字通り「残業代ゼロ」で労働者をこき使い、労働者の健康を破壊し、「過労死」に追い込むものなのは明らかです。

 報告書案は、新しい制度の対象となる労働者の「健康管理時間」を企業が把握し、健康・福祉確保措置を講じるなどとしていますが、労働時間規制の根幹を破壊して「健康管理時間」を把握するといってもそれは絵に描いたもちです。報告書案は24時間のうち一定時間以上の休息を与える、1カ月あたりの健康管理時間が一定の時間を超えないようにする―などとしていますが、いずれも「一定」などとあいまいで、企業が守らない場合の制裁もありません。

労働者の要求には冷たい

 今回の報告書案では、労働時間規制が適用されない制度を導入するとともに、フルタイムで働くすべての労働者を対象に年間5日間の有給休暇の取得を企業に義務付けるとしています。いまでさえ世界でもっとも労働時間が長いのに、労働時間規制が改悪されればさらに拍車がかかるという批判を受けたものですが、労働者から強く要求されている時間外労働の上限規制などの導入については採用していません。労働者に冷たい姿勢は明らかです。

 労働時間規制の破壊を許さず、長時間労働を根絶するために、国民のたたかいが重要です。