主張

社会保障の「営利化」

暮らしを支える基盤を壊すな

 安倍晋三政権が閣議決定した「骨太の方針2015」は、「財政健全化」を口実に、社会保障費の伸びを毎年3000億~5000億円規模で削減する方針を盛り込み、国民の暮らしを壊す姿勢を鮮明にしました。それとともに「社会保障をはじめとする公的サービスの産業化の推進」と明記したことは見逃せません。医療、介護、保育などの分野を大企業などのもうけの場に変質させる狙いです。暮らしの安心の基盤である社会保障を「営利化」することは、国民の願いに逆らう方向です。

機械的削減に反省なく

 「骨太の方針」は、政府の経済財政運営の基本方針です。12年末に政権復帰した安倍政権下で3度目の今年の「骨太の方針」は、「社会保障は歳出改革の重点分野」と強調し、もっぱら社会保障費をやり玉にあげました。社会保障費が国の財政の重荷になっているという発想です。その具体策として、16年度から5年間で、社会保障費の伸びを毎年3000億~5000億円カットするとしました。

 高齢者の人口増や医療技術の革新などで年間約8000億~1兆円の自然増が見込まれる社会保障費を、政治の力で無理やり抑え込むことが、国民の暮らしにどれほど深刻な被害をもたらすか。

 社会保障費「毎年2200億円削減」を実行した小泉純一郎内閣時代に、「医療崩壊」「介護難民」を続発させたことへの反省はまったくみられません。

 安倍政権下でも、年金実質引き下げ、介護報酬大幅削減、生活保護費削減などが次々と行われ、国民の暮らしを直撃しています。国民をさらに苦境に追い込む社会保障費連続削減はやめるべきです。

 「骨太の方針」が削減路線と一体で前面に打ち出したのが社会保障の「産業化」です。「企業等が医療機関・介護事業者、保険者、保育事業者等と連携して新たなサービスの提供を拡大」「民間の活力を活(い)かしながら歳出を抑制する」などとさかんに強調しています。昨年の「骨太の方針」より踏み込んだ内容です。国や地方自治体が「歳出削減」のために社会保障から撤退したところを、民間企業に担わせる意図を露骨に示すものです。

 「骨太の方針」と同時に閣議決定した改訂「日本再興戦略」や「規制改革実行計画」は、国民の安全・権利を守る規制を撤廃し「営利化」の加速へ具体策を掲げています。

 利潤追求が原則の民間営利企業によるサービス提供は、国・地方自治体が責任をもつ公共サービスと根本的に違います。保育や介護の事業に参入した企業がもうからないと撤退し、利用者が置き去りにされるケースも少なくありません。お金のない人が必要なサービスから締め出される事態をさらに深刻化させるものです。憲法25条で定められた社会保障の安心・安全を脅かし、国民の暮らしの大本を揺るがす「営利化」をすすめることは許されません。

公的責任を強めてこそ

 政府は、「財政健全化」といえば社会保障費を減らすことばかりしか考えない固定観念から脱却すべきです。大企業のもうけのために国民の暮らしや安心を犠牲にする政治では経済再生もできません。

 国民の生存権を保障し、社会保障の向上・増進にたいして国が責任を持つ政治へ転換することが、いよいよ重要となっています。