最新の世論調査(「読売」6日付)で8割を超える人が計画を「見直すべき」とする中、それに応える議論は一部にとどまりました。
文科省は先月末、工期を間に合わせ、工費を削減するため、開閉式屋根を先送りし、可動席を仮設にすることを発表しました。それでも1625億円から900億円も膨らんだ工事費に批判が集中しています。
にもかかわらず、委員からは「屋根があることがマスト(欠かせない)だ」、「開閉式屋根と仮設の席を常設にすることが条件。それがなければ反対せざるを得ない」など世論に挑戦するような意見が次々と飛び出しました。
会議の冒頭、河野一郎JSC理事長が、「さまざまな課題は厳粛に受け止めている」と語ったのとは対照的な議論でもありました。
JSCの報告では、将来的に工費や経費が膨らむ可能性も見え隠れしていました。
五輪後に整備する開閉式屋根などの経費は168億円としました。これは当然、2520億円とは別です。
さらに、この先50年の間に必要な大規模改修費をこれまでの650億円から1046億円に増額し、これも「国費で対応する」(JSC)ことになります。
そもそも資料には、総工費の2520億円は実施設計段階での「目標工事費」としており、膨らむことを前提としているかのような記述になっています。
さらに重大なのは、この会議に、文科省の副大臣や局長が参加しているにもかかわらず、財源をどうするのかの議論がまったく出なかったことです。
新国立は、五輪のメーン競技場としては通常の5倍から8倍という破格の総工費となります。同時に、その財源のめどすら立っていない現状は、計画として破綻しているに等しいものです。
この最重要事項を議論しないことは、文科省、JSCの無責任な体質を浮き彫りにしています。
新競技場のデザインを決めた審査委員長で建築家の安藤忠雄氏が欠席したことと合わせ、その運営責任が厳しく問われています。
(和泉民郎)